美容医療界の発展のため、体系的に学べる場を。教育と研究に取り組むNPO法人「自由が丘アカデミー」
美容医療を受ける人は、近年増えている(※1)(※2)。
一方で、その美容医療を担う医師がどこで、何を学んで美容医療に携わっているのかは、患者からは見えにくい。
施術を受ける側にとって、医師がどんな土台の上に立っているのかは、実は大切な手がかりになる。
NPO法人「自由が丘アカデミー」は、東京・自由が丘の街で30年以上(※3)にわたって美容医療を手がける自由が丘クリニックの関係者が中心となって2021年に設立された。
美容医療を担う医師・医療従事者の育成、研究、情報発信、そして国際交流に取り組む組織だ。
代表理事を務めるのは、福岡大学で長く形成外科の教育に携わり、関連学会と合同で美容医療の診療指針づくりにも取り組んできた大慈弥裕之医師である。

なぜ、クリニックとは別に、医師を育てる場をつくったのか。
日本では美容外科をどこで学ぶのか、そして美容医療の土台に何が必要なのか。
美容医療に関する相談が各地の窓口に寄せられている状況(※4)も踏まえながら、大慈弥代表理事に話を聞いた。
※1:美容医療の利用率は経年で増加傾向にあり、男性は5年連続で上昇して過去最高となった。20代では、男性の1年以内利用率(22.8%)が同年代の女性(21.7%)を初めて上回っている(株式会社リクルート ホットペッパービューティーアカデミー「美容センサス2025年下期<美容医療編>」)。
※2:かつて「整形」というネガティブな印象を伴っていた美容医療の受け止め方が、雑誌特集やSNSの広がりなどを通じて変化してきたことも指摘されている(WWD JAPAN「美容医療はあり?なし?アンケートから見えた美への意識の変化」2019年)。
※3:2026年8月時点。1995年開院(自由が丘クリニック 30周年記念サイト)。
※4:全国の消費生活センターに寄せられた美容医療サービスに関する相談件数は、2022年度3,798件、2023年度6,281件、2024年度10,717件と推移している(国民生活センター「美容医療サービス」)。
2020年より自由が丘クリニックで眼瞼下垂外来を担当、2021年、自由が丘アカデミーの代表理事に就任。著書に、目もとの加齢と向き合うための一般向けの一冊『目もとの上手なエイジング』(全日本病院出版会)がある。
日本専門医機構認定 形成外科専門医・指導医、日本美容外科学会(JSAPS)専門医・元理事長、日本形成外科学会 名誉会員、日本抗加齢医学会認定 専門医。
「美容外科を学べる場所が少ない」——アカデミーが生まれた理由

ーまず、自由が丘アカデミーとはどのような組織なのでしょうか。
大慈弥:美容医療を担う医師や医療従事者の育成を中心に、治療法の研究、市民の方々に向けた情報発信、そして海外との交流に取り組んでいます。
具体的には、医師や医療スタッフに向けたセミナーや勉強会、専門家が集まって学び合うフォーラムを開き、その成果を学会発表や論文の形にまとめています。
自由が丘クリニックが患者さんと向き合う場だとすれば、アカデミーは美容医療という分野そのものに向き合う場だと考えています。
ー医師の教育に取り組む背景には、どのような問題意識があるのでしょうか。
大慈弥:日本では、形成外科そのものは大学病院で学ぶことができます。
ところが、その形成外科の中の領域である美容外科を、体系的に学ぶ機会は多くありません。
大学病院は保険診療が中心で、自由診療にあたる美容外科を学ぶ環境がつくりにくいからです。
皮膚科でも事情は似ています。
大学では学びにくい美容外科を、きちんと体系立てて学べる場をつくることが、このアカデミーを設立した主な目的のひとつです。
ーどのような方が学びに来るのでしょうか。
大慈弥:基本となるのは、形成外科や皮膚科の専門医です。
そこに、看護師をはじめとする医療スタッフも加わります。
さらに、美容医療を社会に正しく伝えていくために、メディアに関わる方々にも学んでいただく機会を設けています。
美容医療について正確な情報がきちんと社会に伝わることも、医療の質を支える一部だと考えているからです。
北里大学、福岡大学、東海大学、帝京大学など、各地の大学の形成外科とつながりながら、若い医師に学びの場を開いていく。
そうした広がりを大切にしています。
大学の形成外科と町の美容クリニックを橋渡しすることで、臨床・研究・教育が一つの場で行き来するような循環をつくりたいと考えています。
形成外科という土台——「つくる」だけでなく「戻す」力

ー美容外科に関わる医師には、どのような学問やスキルが求められるのでしょうか。
大慈弥:美容外科の土台になるのは、形成外科の基本そのものです。
傷が癒えていく仕組みをあつかう創傷治癒学、頭から足先までの局所の解剖学、組織をきれいに縫い合わせたり、入れ替えて形を整えたりする基本手技、そして失われた部分を補う再建外科。
こうした積み重ねの上に、美容外科があります。
とくに再建外科は、事故や病気などで失われた組織を補い、形を取り戻していく領域で、「元に戻す力」が問われます。
この経験が、美容外科の現場にも生きてきます。
ーなぜ、その土台がそれほど大切なのでしょうか。
大慈弥:手術は、からだに侵襲を加える行為です。
きれいな二重をつくる、輪郭を整えるといった「形をつくる」技術だけでは足りません。
与えた侵襲が戻っていく過程は発生しますし、どんな手術でも、想定どおりにいかないことは一定の割合で起こりえます。
さまざまなケースで、そのときそのときで状態を見立て、できるかぎり元の形や希望する形に近づける。
それには、つくる技術だけでなく、戻す技術まで含めて身につけることが欠かせません。
その力こそが、形成外科の基本です。
たとえるなら、車を組み立てられても、不具合が出たときに直せるかどうかは別の話です。
受け身を覚えないまま柔道の試合に出るようなことは避けるべきだと考えています。
ー基本を身につけることの意味を、どのように考えていますか。
大慈弥:どの世界でも、一流と呼ばれる人ほど、基本がしっかりしていると感じます。
美容外科も同じで、基本がある人ほど、その先の伸びが速い。
何かあっても落ち着いて対応できます。
美容外科手術は本当に難しく、だからこそおもしろい。
一例一例が真剣勝負だと、現場に立つたびに実感しています。
福岡大学に医学部形成外科学講座を立ち上げ、主任教授に

ー先生が形成外科医を志したきっかけを教えてください。
大慈弥:父が、池袋で美容外科を開業していました。
父としては、私に跡を継いでほしいという思いがあったようです。
ただ、美容外科に進むにも、まず形成外科をきちんと学ぶ必要がある——これは、当時その世界にいた先生方に共通する考えでした。
それで、北里大学病院の形成外科に入り、塩谷信幸先生(※5)のもとで学ぶことになりました。
ー恩師である塩谷信幸医師からは、どのようなことを学んだのでしょうか。
大慈弥:塩谷先生は、アメリカで培われた形成外科を日本に持ち込んだ方です。
本来、形成外科のなかには美容も含まれているという考えをお持ちでした。
当時の日本では、形成外科から美容だけが切り離されがちでしたが、塩谷先生は、それでは十分ではないとして、美容もしっかり学ぶべきだと教えてくださいました。
正式な形成外科を学ぶうちに、父の時代の美容医療とは、土台もエビデンスへの向き合い方も違うのだと実感しました。
ーその後、福岡へ向かわれます。
大慈弥:大学で先天異常や再建手術に携わり、患者さんにとても喜んでいただける経験を重ねるなかで、形成外科そのものを究めていきたいという思いが強くなっていきました。
その後、福岡へ戻り、福岡大学医学部の整形外科の講師になりました。
整形外科に入ったのは、当時、九州にはまだ形成外科が根づいていなかったためです。
やがて、福岡大学に形成外科の講座をゼロから立ち上げ、最終的には主任教授を務めました。
私は口唇口蓋裂などの先天異常や乳房再建などの再建外科を中心に診療しましたが、美容医療を受けて困りごとを抱えた患者さんが、最終的に大学を頼って来られることも少なくありませんでした。
そうした方々と向き合うなかで、形成外科を土台とした美容外科の診療、教育、研究がいかに大切かを、あらためて感じました。
※5:塩谷信幸(しおや のぶゆき)医師は、北里大学名誉教授。日本における形成外科の発展に長く貢献し、日本形成外科学会・日本美容外科学会の名誉会員を務めた。大慈弥医師や、自由が丘クリニックの古山登隆理事長の恩師にあたる(自由が丘クリニック 公式サイト)。
学会を率い、診療指針づくりに尽力。そして自由が丘へ

ー学会活動にも長く携わってこられました。
大慈弥:日本美容外科学会(JSAPS)の理事長や、日本形成外科学会の副理事長などを務めました。
これらの学会では、発足当時より長年にわたり、美容医療をより健全な形にしていくための仕組みづくりについて議論がなされていました。
その流れの中で、私は関連する学会と合同で、美容医療の診療指針をまとめる取り組み(※6)にも携わりました。
これは、恩師である塩谷先生が取り組んでこられたことを、引き継ぐ事業でもありました。
ーそして、自由が丘アカデミーの代表理事に就任されます。
大慈弥:大学を退いたあと、北里でレジデント時代をともに過ごした自由が丘クリニックの古山登隆理事長から声をかけてもらいました。
もともと、大学では教育・研究・診療の三つが柱で、教育は当たり前に意識してきた領域です。
日本の美容医療が抱える課題について古山理事長と話すうちに、ここでなら学びの場をつくれると考え、2021年の自由が丘アカデミー立ち上げに伴い、代表理事を引き受けることにしました。
※6:大慈弥医師は、関連学会が合同でまとめた「美容医療診療指針」の作成に携わってきた。あわせて、厚生労働科学研究「美容医療における合併症の実態調査と診療指針の作成」(厚生労働科学研究成果データベース)の研究代表者を務めた。
自由が丘クリニックという「学びの場」——臨床・研究・教育の循環

ー自由が丘アカデミーだからこそ提供できる教育はあるのでしょうか。
大慈弥:当初、九州で同じことができないかと考えましたが、難しいとわかりました。
体系的な教育には、幅広い症例や設備、それを教える講師陣がそろっている必要があります。
その点、自由が丘クリニックには、複数の専門領域の医師が集まり、施術を実際に見せられる環境があります。
そのリソースを使えるメリットを活かせば、講師を集めてまとまった教育ができる。
いわば、自由が丘クリニックが、美容医療における大学病院のような役割を担っているのです。
ークリニックの宣伝のための教育活動ではない、ということですね。
大慈弥:そのとおりです。アカデミーはNPO、つまり非営利の団体です。
クリニックの宣伝や、経済的な利益を得るための活動ではありません。
クリニックが患者さんと向き合うのに対して、アカデミーは美容医療という分野全体に目を向けています。
役割がはっきり分かれているからこそ、教育に集中できると感じています。
ー自由が丘クリニックでの「臨床」と自由が丘アカデミーでの「教育」は、どのように影響し合っていますか。
大慈弥:自由が丘クリニックでの日々の診療で得た気づきを、研究としてエビデンスの形にし、それを自由が丘アカデミーでの教育に反映させます。
逆に、エビデンスにもとづいて考える姿勢が、クリニックの診療にも返ってきます。
たとえば、目もとの加齢がどのように進んでいくのかを画像で解析し、その知見を診療や教育に役立てる研究にも取り組んでいます。
国境を越えて学ぶ——国際交流の取り組み

ー海外との交流も活発だと伺いました。
大慈弥:台湾の皮膚科医でリードドクターであるDr.ピーター・ペンの研究所との合同フォーラムを毎年おこなっています。
皮膚科の領域と形成外科の領域の二つを柱に、互いの知見を持ち寄って学び合う場です。
海外からの参加者にも前向きに受けとめてもらっていて、回を重ねるごとに手応えを感じています。
美容医療は世界的に広がっていて、国ごとに進め方も異なります。
互いの取り組みを持ち寄ることで、見えてくるものがあります。
日本から海外へ学びに行くだけでなく、海外から日本へ学びに来てもらえる場へと育てていきたいと考えています。
ー今後、自由が丘アカデミーをどのように広げていきたいですか。
大慈弥:形成外科や皮膚科の専門医が美容を学ぶ場、という軸は変えません。
そのうえで、看護師や医療スタッフが学べる場、さらには美容医療を社会に正しく伝えていくための、メディアに向けた発信の場も広げていけたらと考えています。
アカデミーが目指すもの——美容医療の「意義」を社会へ

ーアカデミーを通じて、最終的に何を実現したいとお考えですか。
大慈弥:日本の美容医療の質を、もう一段引き上げたいという思いがあります。
あわせて、美容医療には確かな意義があるということを、社会に、医学の世界に、そして行政や立法の場に、きちんと伝えていきたい。
担い手を育て、研究を積み重ね、その意義を発信していく。
この三つは、つながっていると考えています。
質の高い担い手が増えれば、患者さんが受け取る医療の確かさにつながります。
研究で得た裏づけは、その医療を支える根拠になります。
そして、その意義が社会に伝われば、分野全体が健全に育っていきます。
ー美容医療をめぐっては、行政も受診前の確認を呼びかけています。
大慈弥:国としても、美容医療を受ける前に確かめてほしい点を整理して、注意を呼びかけています(※7)(※8)。
関連学会と合同で、美容医療に伴う合併症の調査や、診療指針づくりを研究代表者として進めてきましたし、自由が丘クリニックで毛髪外来を担当する武田啓医師も、国の検討会に構成員として加わっています(※9)。
受ける側が判断するための材料を整えることも、私たちの役割だと考えています。
ー美容医療という分野ならではの難しさはありますか。
大慈弥:美容医療は、世界的に発展してきた分野です。
そのなかで、医学とビジネスのバランスをどう取るかは、とても大切なテーマだと感じています。
医学に求められるのは、有効性とリスクを科学的に見きわめ、検証していくことです。
担い手を育て、研究を重ねながら、そのバランスを保てる分野にしていきたい。
アカデミーの活動が、そのための一石になればと考えています。
※7:消費者庁「美容医療を受ける前に確認したい事項と相談窓口について」
※8:厚生労働省「確認してください!美容医療を受ける前にもう一度」
※9:武田啓医師(北里大学名誉教授)は、厚生労働省「美容医療の適切な実施に関する検討会」(2024年)に構成員として参加している。
学ぶ人へ、そして美容医療を受ける人へ

ー美容医療を検討するにあたって、医師やクリニック選びのポイントを教えてください。
大慈弥:患者さんから「どう選べばよいか」と聞かれたとき、私がいつもお伝えしているのは、形成外科や皮膚科の専門医かどうかを確かめてください、ということです。
あわせて、その医師がどんな経歴を歩んできたかを見れば、土台になる部分はある程度わかります。
気になることは遠慮なく質問し、その場で決めず、納得してから選ぶ。
そうした姿勢を大切にしてほしいと思います。
ー最後に、読者へメッセージをお願いします。
大慈弥:美容医療はあくまで医療の一分野です。
科学である医学、医療技術、そして医療倫理と医療安全の基におこなわれるべきものです。
自費診療であっても他の医療と変わることはありません。
また、美容医療は、受ける方が自分自身と向き合う選択肢のひとつだと考えています。
その可能性を確かなものにするには、担い手を育て、医療の質そのものを底上げしていく取り組みが欠かせません。
美容医療を受ける方にも、これから学ぶ医師にも、その土台を支える場が必要なのだと伝えたい。
そういう思いで、これからも教育と研究に取り組んでいきます。
美容医療を手掛ける医師が、どこで、何を学んでいるのか。
インタビュー中、大慈弥医師の言葉は、その見えにくい部分——医師をどう育て、知見をどう確かめ、どう次へ渡していくか——に、くり返し立ち返っていった。
自由が丘アカデミーは、美容医療という領域全体の発展を目指して設立された。
自由が丘クリニックが積み重ねてきた診療の知見を研究で確かめ、学びの場へとつなぐ。
その循環が、めぐりめぐって日々の診療へと昇華されながら、施術を受ける患者一人ひとりへと返っていく。
担い手を育てる取り組みは、すぐに成果が見えるものではない。
それでも、美容医療を一段引き上げたいという大慈弥医師の想いは、目の前の一人だけでなく、これからの美容医療そのものへと向けられている。
自由が丘アカデミーについて

| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 法人名 | 特定非営利活動法人 自由が丘アカデミー |
| 代表理事 | 大慈弥 裕之 |
| アカデミー紹介 | 2021年、美容医療を担う医師・医療従事者の育成、治療法の研究、市民に向けた情報発信、国際交流などを目的に設立された。自由が丘クリニック等を展開するJCグループ内のNPO法人。 |
| 所在地 |
〒152-0023 東京都目黒区八雲3丁目12番10号 |
| アクセス | 東急線 自由が丘駅・都立大学駅より徒歩約10分/東急バス「八雲三丁目」下車すぐ/駐車場あり |
| 電話番号 | 0800-808-8200/03-5701-2500 |
| Webサイト | https://jiyugaoka.or.jp/ |