糖尿病治療の専門医が少なく、改善へのアプローチが模索されていた時代から、あえてその道を選び、一貫して患者と向き合い続けてきた医師がいる。
東京都千代田区・半蔵門に位置するHDCアトラスクリニックの鈴木吉彦院長だ。
累計100万部を超える著書を持ち、医療DXの黎明期からITを活用した患者教育を実践してきた鈴木院長。
「需要は現場にある。患者様が何を求めているかに応えることが私の原点」。
同院では、客観的な臨床指標に基づいた治療方針のもと、適切な管理とエビデンスに基づいた個別化医療を提供している。
蓄積された知見に基づくアプローチは、多くの患者の合併症予防や病態管理を支えてきた。
なぜ彼は「サブスク型会員制」というシステムを採用し、健康管理における科学的根拠の重要性を説くのか。
時代に先駆けて、真に患者のリスクに配慮し未来を守るための医療のあり方に迫る。

「これからは生活習慣病の時代が来る」。独自の仮説で飛び込んだ、糖尿病治療へのアプローチ

―1980年代前半、なぜいち早く糖尿病の重要性と可能性に着目し、ご自身の専門として選ばれたのでしょうか。
鈴木: 私が慶應義塾大学の医学部を卒業したのは1983年のことです。当時の糖尿病は、広く一般に認知されている疾患ではありませんでした。映画などで描かれていたように、目が見えなくなったり、足を切断されたりする、改善が難しい恐ろしい病気というイメージが強かった時代です。
当然、周囲からは「そんな分野に行っても…」と反対されました。しかし、私には呼吸器の専門医であった父親からの「メジャーな分野ではなく、まだ手がつけられていない領域に挑んだ方がいい」というアドバイスが胸にありました。この父の言葉が大きな後押しの一つとなり、私はあえて糖尿病の道を選びました。
当時は感染症の治療が中心でしたが、これからは糖尿病や心筋梗塞といった生活習慣病が増える時代が来ると、自分なりの仮説を持っていたからです。それに、論理的に物事を考える内分泌という学問が、自分の性に合っていたというのも大きな理由でした。
―そこから、当時糖尿病診療に深く注力していた済生会中央病院へ進まれたのですね。
鈴木: はい。大学に残る道もありましたが、循環器の教授に「糖尿病をやるなら大学の外に出た方がいい。済生会中央病院だ」と勧められ、飛び込みました。医局に入った時、「君が糖尿病として入局した最初だよ」と驚かれたほどです。本当に糖尿病を専門とする医師が少なかった時代ですが、結果的にその選択が私の原点となりました。
累計100万部の著作に込めた思想と、一貫して挑み続けた患者への啓蒙活動

―先生はこれまでに70冊以上もの書籍を執筆されています。多忙な診療の中で、そこまで啓発活動に情熱を注がれた原動力は何だったのでしょうか。
鈴木: 原動力は「現場の需要」から始まりました。済生会中央病院に入って最初の上司から与えられたミッションは、なんと「映画を撮れ」というものでした。当時の済生会中央病院は、まだ適切な薬がなかった時代に、患者様に食事療法や運動療法を教える「患者教育」で広く知られた病院だったのです。
外来は非常に忙しく、いわゆる「3分診療」になってしまい、患者様に十分に説明する時間がありませんでした。
病棟に行けば「私は1日の食事を1200キロカロリーに制限するよう言われました。その中で、うなぎはどうやって食べたらいいんですか?」と、患者様一人ひとりから個別に質問を受ける毎日です。そこで、「だったら一冊の本にまとめて、それを読んできてもらおう」と考えたのです。
―それが、多くの読者に届く一冊になったのですね。
鈴木: ええ。最初に出した『外食カロリーBOOK』という本は、60万部の発行となりました。当時はインターネットもない時代ですから、患者様は、自分のカロリー制限の中でどう外食を楽しめばいいかという情報を求めていたのです。世の中の需要と合致した瞬間でした。
本を読んできてもらうことで、外来での短い時間でも、より深くて具体的な対話ができるようになりました。私にとって本を書くことは、診療の質を上げ、患者様を教育するための手段だったのです。
これまでに書いた本は70冊を超え、累計で100万部を超えましたが、その根底にあるのは「患者様が何を求めているか」という現場の声に応えることでした。

―書籍の執筆以外にも、1型糖尿病の啓蒙活動や、社会貢献にも早くから取り組まれていたと伺いました。
鈴木: はい。当時、2型糖尿病向けの本が広く読まれた一方で、1型糖尿病に向けた情報発信が不足していると感じていました。
そこで、当時1型糖尿病を抱えながらプレーしていたプロ野球のガリクソン投手と一緒に本を制作したのです。
その時の印税などの利益は糖尿病協会に寄付し、それがのちの「ガリクソン賞(小児糖尿病関連賞)」の創設に繋がりました。
さらに、新聞で医療をテーマにした漫画の原作を担当したこともありました。常に新しいストーリーを考えるため、睡眠時間を削ってアイデアを練り、極限まで自分を追い込んだ結果、体を壊しかけたこともあります。心拍数が跳ね上がり、「これで人生が終わるかもしれない」と覚悟したほどです。
それでも「どうすれば患者様に正しい医療知識が伝わるか」を考え抜く、クリエイターとしての情熱が私を突き動かしていたのだと思います。
ソニーの産業医、そして医療DXの黎明期。ITを活用した診療プラットフォームの構築

―書籍だけでなく、先生はインターネットの黎明期から医療分野でのIT活用にも取り組まれていますね。
鈴木: 1990年代初頭、私はソニーの産業医のような立場で、井深大氏や大賀典雄氏といったトップの方々の健康相談に携わっていました。そのご縁もあり、1996年頃にソネットの立ち上げに関わることになったのです。
当時はまだインターネットが普及し始めたばかりでしたが、私はHTMLを独学で覚え、ソネット上で医療エッセイの執筆を始めました。インターネットを通じて広く医療情報を届けられることに、大きな可能性を感じたからです。
―多くの医師が利用している「MR君」の仕組みも、先生が考案されたと伺いました。
鈴木: そうです。インターネットの時代を見据え、出版社や製薬会社と連携した医療ポータルサイトの構想に関わりました。そこで、のちの「MR君」の原型となる仕組みを考案し、私自身も連載を持っていました。
ただ、私はあくまで「正しい医療情報を届ける」という信念にこだわっていたため、利益を追求するビジネスの世界には深く入り込まず、身を引く決断をしました。
ビジネスの拡大よりも、医師としての本来の役割、つまり目の前の患者様のために適切に向き合う道を歩み続けたかったのです。
インスリン依存からの離脱を見据えて。エビデンスに基づく細やかな調整と診療アプローチ

―HDCアトラスクリニックには、これまでの治療に不安や疑問を抱え、全国から駆け込んでくる患者様が少なくないと伺いました。その中には、他院で継続的なインスリン注射が必要だと宣告された方もいらっしゃるそうですね。
鈴木: ええ。当院には、初診時にHbA1cが7.4%以上と高く、注射の回数や治療方針の見直しを希望されて来院されるケースが多くあります。そうした患者様の中には、インスリン注射の継続について諦めかけている方も少なくありません。
しかし、当院の診療方針として、患者様の状態を詳細に分析し、適切なアプローチを行うことで、インスリン依存からの離脱を見据えた治療を実践しています。
―どのようなアプローチでインスリン離脱を目指していくのでしょうか。
鈴木: 決して特別な手法を用いているわけではありません。医学的根拠(エビデンス)に基づいた、細やかな見極めと調整の結果です。
当院では、患者様が来院された際、まずは膵臓の働きを正確に把握するため、「膵機能」や「GAD抗体」といった詳細な検査を行います。
その検査結果をもとに、「適切なインスリン注射の量」を算定し、「内服薬や別の治療法へ切り替える余地はないか」と、治療内容を根本から再評価するのです。

―年齢やライフスタイルに応じた明確な目標数値も設定されていると伺いました。
鈴木: 当院では一律の数値を押し付けるのではなく、一人ひとりの年齢や状態に合わせた細やかな薬剤選択を行っています。
実際の診療方針として、当院では臨床データに基づき、65歳未満の患者様、あるいは70歳以上の患者様といった年齢層ごとに適切なHbA1cの目標目安を細かく設定しています。
ライフスタイルを否定せず、その方に合ったエビデンスに基づく治療プランを提案・継続していただくことが、診療アプローチの核なのです。
―そうしたインスリン離脱の学術的な解説やメカニズムを、学会発表だけでなく、あえてクリニックのウェブサイトでも公開されているそうですね。
鈴木: はい。なぜインスリン依存からの離脱を見据えたアプローチが可能なのかというアカデミックな解説は、専用のページに公開しています。
学会発表は医師の間での共有に留まりがちですが、ウェブサイトに掲載しておくことで、治療方針に深く悩んでいる患者様自身が、必要な時にその情報にアクセスすることができます。
「適切な検査と細やかな調整を行えば、治療内容を見直せる可能性がある」というエビデンスを示し、正しい知識を持ってもらう。
患者様ご自身が納得して治療に向き合える環境を作ること。
これこそが、私にとって何より重要な「患者教育」なのです。
適正処方の徹底。サブスク型会員制がもたらす、患者の未来を守る「患者教育」への取り組み
―昨今、特定の糖尿病治療薬をダイエット目的で処方するケースが見られ、社会的な話題になっています。この現状をどうご覧になっていますか。
鈴木: 本来の目的と異なる「目的外処方」は、医薬品の適正な管理と運用の観点から慎重であるべきだと考えています。
該当の薬剤はあくまで2型糖尿病の患者様のための医薬品であり、十分な説明や診断なしに用いることは適切な医療とは言えません。
当院では、肥満症治療に対しては正式に承認された治療薬のみを選択し、医学的根拠に基づく正統な医療に徹しています。

―そうした背景もあり、先生のクリニックでは肥満治療において「サブスク型会員制(MyMediproプライム会員)」を導入されています。丁寧なサポート体制が敷かれている背景には、どのような理由があるのでしょうか。
鈴木: 自由診療による肥満治療を行う上で重視しているのは、患者様がご自身の体に入る薬について「正しく理解し、不安なく治療に臨めること」です。
それを実現するための重要なアプローチが、ここでもやはり「患者教育の徹底」なのです。
会員の皆様には、私が監修した体重管理や薬剤に関する詳細な動画コンテンツを閲覧できる専用ページを提供しています。
さらに、医学研究の動向やゼップバウンド等に関する解説情報などを、ニュースレターとして定期的にお届けしています。
薬のメリットだけでなく、リスクや正しい使い方をしっかりと学んでいただく。
患者様が正しい知識を身につけ、ご自身の健康と向き合うための「学びと伴走の仕組み」として、あえて会員制にしました。
―単なる仕組みではなく、患者様が理解を深めるための「情報発信の場」としての会員制なのですね。
鈴木: その通りです。ご自身の身体と真剣に向き合い、適切で根拠のある医療を受けたいと考える方々に向けた診療体制となっています。
そうした患者様としっかり対話し、リスクに配慮した医療を提供し続けることが私の責任です。
AI活用と多言語対応による展開。グローバルな視点を見据えた医療プラットフォームの構築
―先生のこれまでの歩み、そして診療への真摯な想いが伝わってきました。最後に、クリニックの今後の展望をお聞かせください。
鈴木: 今後、肥満症の治療薬は10種類ほど次世代のものが出てくると言われており、医療の選択肢は非常に複雑な時代に突入するでしょう。
だからこそ、患者様が正しい情報にアクセスできる場所が必要になります。
私は過去に、黎明期における医療ポータルサイトの立ち上げに関わり、国内で広く普及した情報プラットフォームを作った経験があります。
この知見を活かし、AIや多言語対応を活用して、広く肥満や糖尿病の治療方針に悩む患者様に適切な情報を届けるための、次世代のプラットフォーム構築を目指しています。
今後は英語版やフランス語版なども展開し、グローバルな視点に基づいた情報発信体制の整備を進めています。

―情報が溢れる時代だからこそ、患者様もご自身に合った適切な医療を見極める視点が必要ですね。
鈴木: ええ。目先の動向に左右されることなく、自分の身体に何を取り入れるのか、客観的な説明とアプローチを行ってくれる医療機関を選択することが重要だと考えます。
需要の本質は臨床の現場にあります。
私はこれからも、患者様の声に耳を傾け、求められる適切な医療の実践に努めていきます。
「適応外のダイエット処方は行わない」。
文字にすると厳格に聞こえるかもしれない鈴木院長の姿勢の根底には、患者の身体に対する強い責任感が存在している。
若き日に多忙な外来の中で「患者様の質問に答えるため」にペンを執り、累計100万部の著書を世に送り出した情熱。1型糖尿病の啓蒙のためにガリクソン賞の創設に尽力し、漫画の原作執筆を通じて「正しい医療の伝え方」を模索し続けたその歩みには、医療の本質に対する真摯なアプローチがある。
そして、自由診療における薬剤処方のあり方が問われる現代において、患者様にしっかりと寄り添い、正しい知識を持ってリスクに配慮して治療を受けてもらうために「包括的な会員制診療」というシステムを構築し、動画やニュースレターを通じた情報共有を徹底する姿勢。
そのアプローチの手段は時代とともに「書籍」から「IT・動画」、そして「AIプラットフォーム」へと姿を変えたが、根底にある「徹底した患者教育を通じて、リスク管理を徹底し、生活の質を向上させる」という方針は、40年を超える臨床の歩みの中で一貫している。
医療経営の効率化やタイパ(タイムパフォーマンス)が重視される現代において、患者様一人ひとりの検査結果(膵機能やGAD抗体など)を緻密に分析し、時に生活習慣の改善を促し、時にインスリンに依存しない状態を目指す道筋を探ることは、決して容易な道ではない。しかし、鈴木院長は「需要は現場にある」と語り、目の前の臨床課題に向き合い続けている。
多様な情報が溢れる現代において、HDCアトラスクリニックは、単に薬剤を処方するだけの場所ではない。患者様が自らの身体と真摯に向き合い、正しい知識という基盤を手に入れるための「学びと伴走の場」なのだ。 「グローバルなプラットフォームを作る」と語る鈴木院長の挑戦は、これからも多くの悩める患者の確かな選択肢となり、地域医療における誠実な拠り所となっていくことだろう。
HDCアトラスクリニックについて

| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| クリニック名 | HDCアトラスクリニック |
| 院長 | 鈴木 吉彦(すずき よしひこ) |
| クリニック紹介 | 2004年に開院した、東京都千代田区・半蔵門に位置する糖尿病診療を中心とした内科クリニック。糖尿病専門医としての臨床経験とエビデンスに基づいた診療を方針とし、患者一人ひとりの生活背景に合わせた治療を提案している。また、オンライン診療やサブスクリプション型の肥満治療(MyMediproプライム会員)など、利便性と継続性を考慮した医療プラットフォームの構築にも取り組んでいる。 |
| 所在地 |
〒102-0082 東京都千代田区一番町5-3 アトラスビル1階 |
| アクセス |
東京メトロ半蔵門線 半蔵門駅 5番出口から徒歩2分 東京メトロ有楽町線 麹町駅 3番出口から徒歩7分 |
| 電話番号 |
03-3234-6060 ※肥満外来・ゼップバウンドに関するお問い合わせ:0120-954-833 |
| 診療時間 |
【一般外来】 月曜日 8:00〜13:00 / 14:00〜15:00(院長外来・完全予約制) / 15:00〜18:00 火曜日 8:00〜13:00 水曜日 8:00〜12:30 / 14:00〜15:00(院長外来・完全予約制) / 15:00〜16:30 木曜日 8:00〜16:30 金曜日 8:00〜12:30 土曜日 8:00〜12:30 【GLP-1ダイエット外来】 火曜日 14:00〜16:20 水曜日 10:00〜14:00 金曜日 10:00〜16:20(人間ドック開催日は休診) 土曜日 9:00〜13:00 |
| Webサイト | https://www.hdc-atlas.com/ |
| ご予約 | 電話予約、会員専用オンライン予約 |