体の不調は、いつも一つの臓器に収まってくれるわけではない。
胸の重さと足のむくみのように、いくつかの症状が同時に起きることもある。
東京都三鷹市下連雀、連雀通り沿いにある「173総合内科クリニック」は、2011年の開院以来、外来診療と訪問診療にほぼ半分ずつの時間を割いている。
稲見光春院長は日本医科大学を卒業後、大学病院で骨髄移植や化学療法に約10年携わった経歴を持つ。
その後、地域のかかりつけ医となり、訪問診療と認知症の診療に軸足を移した経緯と、診療の幅を広げてきた背景について聞いた。
*1:コウノメソッド 実践医名簿 東京都(2026年8月インタビュー時点)
特定の診療科にとらわれず、内科全般を診る「総合内科」

―「173」と数字を冠したクリニック名や、院内の随所に使われているターコイズブルーが印象的です。
稲見:クリニック名の「173」は私の名字に由来し、院内のターコイズブルーは、小学生まで住んでいたハワイの海の色をイメージしています。
―内科ではなく「総合内科」を掲げていらっしゃいます。
稲見:「総合内科」を掲げているのは、プライマリ・ケアとして、どこに行ったらいいのかわからないという方に、まず相談に来ていただける場所でありたいからです。
医療は専門性が高くなり、臓器ごとに深く診ていく流れにあります。
その分、領域をまたいで診ることが難しくなり、ひとつの専門領域だけを治療していると、別のところに不具合が出てしまうことがあります。
そうならないよう、私はスペシャリストというよりはジェネラリストとして、患者さんの全体を俯瞰するように努めています。
―暮らしの中で、不調が複数にまたがることも多いと思います。
稲見:血圧の薬を飲んでいて、膝が痛くて夜も眠れない、というケースはいくらでもあるように、患者さんの悩みは一つではありません。
その悩みを横断的に拾い上げるのが、地域のかかりつけ医の役目です。
私は大学では血液内科、内分泌代謝内科、消化器内科に所属し、高度救命救急センターまで一通り経験しました。
それらの経験も、幅広く対応することができる土台になっています。
医学的な正しさと、その人の暮らしに沿った正しさは同じではない

―幅広く診るうえで、判断の基準にされていることはありますか。
稲見:医学的に正しいことと、その人の生活に沿った正しさは、必ずしも同じではないということです。
たとえば、2型糖尿病の方は認知症を併発しやすいことが知られています(*2)。
認知機能が落ちている方の2型糖尿病を診療する際、手技の難しい注射などの治療をそのままお願いしてよいのか、もっと簡単な選択肢はないのか、と考える必要があります。
注射を自分で打てなくなった方に、訪問看護師が伺えるのは週に数回ですから、その回数に合わせて投薬の方法を組み替えることまで考えるのが主治医の役目です。
検査の数値だけを見ていては、その人の主治医とは言えません。
―患者さんの暮らしや背景を知るために、診察で心がけていることを教えてください。
稲見:とにかく聞くことです。
患者さんが訴えていることを聞き逃さなければ、大きく外れた診断にはならないと思っています。
そのために当院は予約制をとり、お話をしっかり聞く時間を取れるようにしています。
待合室がいっぱいの状態では、診療が流れ作業になってしまうからです。
大学病院で入院患者さんを診ていたころは、ベッドサイドに座り、まず会話を交わしてから診察を始めていました。
開院してからも、その順番は変えていません。
*2:「糖尿病と認知症の疫学:久山町研究」によると、福岡県久山町の住民を対象とした疫学調査で、糖尿病と認知症発症リスクの関連が報告されている。
訪問診療は医師と看護師の2人で。きめ細かいケアが可能に

―訪問診療では、医師と看護師がペアで伺っているとうかがいました。
稲見:訪問診療では、事務職員やドライバーが同行し、医師が1人で診療にあたることも多いようですが、当院では、患者さんのお宅に伺うときは必ず医師と看護師の2人で伺います。
医師は看護や介護の専門家ではありません。
当院では開業当初から、ご家族への介護の指導は、看護師がおこなう体制をとっています。
医師は診察と検査、投薬、必要に応じて入院の手配をおこないます。
看護師はご自宅での介護の方法をご家族にお伝えし、不安や疑問に答え、ときには愚痴も伺います。
ご家族が疲れきらないように、介護や福祉のサービスをご紹介することもあります。
―ご自宅に伺うからこそ見えてくることもありそうです。
稲見:お家に入ると、診察室では見えないことが見えてきます。
身なりや、お部屋が片づいているか、ご家族との関係はどうかなど、患者さんの背景をより深く理解することができます。
訪問の範囲は、三鷹市、武蔵野市、小金井市を中心に、調布市、杉並区、世田谷区の一部です。
夜間は私が電話と往診で対応しています。
大学病院を離れ、在宅医療に出会う

―訪問診療に携わるようになった経緯をお聞かせください。
稲見:元々は大学でずっと血液内科にいて、骨髄移植や臍帯血移植と、化学療法をメインにしていました。
医師10年目で一区切りがついたこともあり、大学病院を離れました。
父の仕事の都合で12歳までハワイで生活していたので、海外に出ることに抵抗はありません。
アメリカの医師免許を取ろうと試験勉強を始め、その間の収入を得るために地域密着型の内科系クリニックでアルバイトを始めました。
そこで携わったのが訪問診療です。
自分が外来で診ていた患者さんが在宅に移り、お看取りまで一貫して携われることにやりがいを感じ、気づけば試験勉強はそっちのけで、そのクリニックに就職してしまいました。
そのうち院長職を任され、アメリカ行きは自然と遠のいていきました。
―もともと入院病棟での診療がお好きだったのでしょうか。
稲見:病棟では患者さんをまるごと診られますし、処置だけではなく、ベッドサイドでちょっとした話をする時間も好きでした。
訪問診療の患者さんはご自宅で入院している状況とも言えますので、訪問診療は入院病棟の延長線上にあります。
自分が診ていた患者さんが最後までご自宅で過ごせるよう、24時間支えています。
力になれなかった悔しさから始まった、認知症の診療

―認知症の診療に力を入れるようになった経緯を教えてください。
稲見:前職で訪問診療を担当していたころのことです。
他の病院から紹介された高齢の男性で、食事もろくに取れず、家で看取りたいというご家族の希望で訪問診療が始まりました。
病院の検査では特に異常はなく、老衰と説明されていたそうです。
認知症の周辺症状のうち、意欲の低下や拒食といった陰性症状が強く、日に日に憔悴され、点滴もおこないましたが、ご自宅で息を引き取られました。
化学療法や骨髄移植に携わっていてがんと闘う医療は提供できるのに、なぜこの方を救えなかったのかという敗北感があり、悔しくてたまりませんでした。
そこから、認知症の勉強を始めました。
祖母が交通事故後のせん妄をきっかけに認知症を発症し、両親や親戚が交代で介護をしていた時期に、研修医だった私は仕事でほとんど帰れなかったという経験もあり、何かしなければいけないという気持ちがずっと残っていました。
―認知症治療にはコウノメソッドを取り入れています。
稲見:認知症の診断と治療を体系立てて説明してくれる本が見つからず、四苦八苦していたときに出会ったのが、コウノメソッドです。
名古屋フォレストクリニックの河野和彦先生が、一般の内科医でも認知症の治療にあたれるように診断・処方を体系化したものです。
高齢者に配慮し、薬を引き算で処方することが特徴のひとつです。
私の実感としても、少ない処方のほうがうまくいくことが多く、場合によっては、通常の10分の1ほどの量しか使いません。
また、介護をする方が救われなければ、患者さんも救われないという考え方や、ご家族にも薬の調整をしていただくこともコウノメソッドの特徴です。
コウノメソッド実践医として診療にあたるようになってからは、山梨県や埼玉県、栃木県など、遠方から通ってくださる方もいらっしゃいます。
腹水治療、KM-CARTに対応。入院せずに受けられる

―KM-CART(ケーエム・カート)という治療も提供されています。導入の経緯をお聞かせください。
稲見:当院を開業してほどなく、肝硬変と肝臓がん、肺転移があり、腹水がたまっている患者さんを紹介いただきました。
おなかの張りと呼吸の苦しさが強く、腹水を抜いても効果は数日しか持ちません。
ご自宅でのお看取りを前提に帰宅された方でしたが、もう少し何かして差し上げられたのではないか、という気持ちが残りました。
以来、お看取りのあとは毎回、おこなったケアや最期の様子を振り返るようにしています。
その後、ある勉強会でKM-CARTを知りました。
腹水は抜くだけだと、かえって状態を悪くする要因になりかねません。
アルブミンなど、体に必要な成分まで一緒に捨てているからです。
一方、KM-CARTは、抜いた腹水から余分な水分と細菌やがん細胞を取り除き、必要な成分を濃縮して点滴で体に戻す方法で、要町病院要第2クリニックの松﨑圭祐先生が考案されました。
採取したものを戻すので、抜いて捨てるだけの方法に比べると、体への負担が少なく済みます。
―実施しているクリニックは少ないのでしょうか。
稲見:大きな病院では入院治療の一環として広く導入されていますが、入院のため家に帰れません。
当院では2016年に外来でのKM-CARTを導入し、入院せずに受けられる体制を整えてきました(※3)。
本来入院でおこなう治療のため、時間はかかります。
朝9時に来ていただき、午前中いっぱいで腹水を抜き、午後をまるまる使って調整して体に戻すので、お帰りは15時から18時ごろになります。
それでも、入院せずにご自宅で療養を続けながら治療を受けられることに意味があると思っています。
訪問診療とクリニックでのKM-CARTを組み合わせることで、入院せずにご自宅でお看取りをした方もいらっしゃいます。
*3:2026年8月インタビュー時点、173総合内科クリニック調べ
母のがんをきっかけに、自家がんワクチン療法を導入

―自家がんワクチン療法とは、どのような治療なのでしょうか。
稲見:自家がんワクチンは手術で取り出したご本人のがん組織を加工し、体の免疫にがん細胞を認識させやすい形にして投与する治療です。
ご自身の免疫の力でがんと向き合うことをめざす、がん免疫療法の一つです。
未承認医薬品を用いる保険適用外の自由診療で、接種は原則3回です(*4)。
手術のあと、再発の不安は誰にでもあるものです。
その不安と向き合うための手段の一つとして、この治療をお示ししています。
―導入のきっかけを教えてください。
稲見:地域の医療従事者向けの講習会で、銀座並木通クリニックの三好立先生のご講演を聞き、知識としては持っていました。
その後、私の母ががんを患い、再発しました。
ほかに手立てはないのかと探すなかでこの治療をあらためて検討し、使用することにしました。
自分の親にも用いたいと思えた治療だったので、2016年に当院にも導入しました(*5)。
この治療は症例報告が論文として発表されています。
私は大学で臨床の傍ら遺伝子の研究もしていましたから、治療の背景を研究の側から確かめられることも、大きな判断材料になりました。
*4:自家がんワクチン療法は、国内未承認の医薬品を用いる自由診療(保険適用外・全額自己負担)。ワクチンはセルメディシン株式会社(筑波大学発ベンチャー)が患者本人のがん組織から受託製造する。費用は実施する医療機関ごとに異なり、同社「診療価格」では1コース(ワクチン接種3回・免疫反応テスト2回)の目安を165〜190万円(税別)と案内している。173総合内科クリニックでの費用・治療の可否は、クリニックに直接問い合わせを。リスク・副作用として、接種部位の腫れや発赤などが報告されているほか、自己免疫疾患を発症している方への投与は、症状を悪化させるおそれがあるため禁忌とされている(同社「よくあるご質問」)。
*5:2026年8月インタビュー時点、173総合内科クリニック調べ
病気になる前から関わりたい。予防のためのダイエット外来

―ダイエット外来を設けられたのはなぜでしょうか。
稲見:当院は生活習慣病を中心とした治療をおこなっていますが、その前の段階から関われたら、と考えました。
とくに脂肪肝は症状が出にくく、長期間放置した場合に肝機能に影響が及ぶ可能性があります。
早めに関われていれば防げたかもしれないという後悔が、この外来を始めたきっかけです。
対象は糖尿病や生活習慣病の方に限りません。
膝や腰が痛い方も、体重が落ちれば体が軽くなり、そのぶん楽になります。
―具体的には、どのような方法をとられるのですか。
稲見:ファスティング、糖質制限、必要な栄養素を取ったうえでカロリーだけを減らす方法など、その方が続けられそうなものを選びます。
大切なのは、習慣にできるかどうかです。
注射で体重が減っても、習慣が変わらなければ元に戻ります。
初診の方には通常の診察とは別に最低30分の枠を取っているほか、取り組み中は公式LINEに食事の内容を送っていただいて、これはこうしたほうがいいですよ、とアドバイスしています。
小さな成功体験を積み重ねていくことが、習慣につながります。
実は私自身も、糖質制限に加えてケトジェニックダイエットとファスティングを学んで実践し、74キロあった体重を学生時代の64キロまで戻した経験があります。
これらの方法は自分が実践しているからこそ、患者さんにも勧めることができます。
「最期まで家に」という選択肢を残したい

―単身で暮らす高齢の方は今後さらに増える見込みです(*6)。在宅療養にどう向き合っていらっしゃいますか。
稲見:当院でも、お一人で暮らしている認知症の方を、何人かご自宅でお看取りしています。
地域で支えてうまくいく場合もありますし、最期は病院がよいという方もいらっしゃいます。
ご希望された場合に、最期まで家にいたいという選択肢が残っていることが重要です。
お看取りを想定して訪問診療をしていても、24時間張り付いているわけではありませんので、不安はあると思います。
だからこそ関わる人たちで共通の認識を作り、入院の判断も含めて話し合いながら、手を差し伸べていくことが大切です。
―多くの職種が関わるなかで、情報はどのように共有されているのでしょうか。
稲見:三鷹市医師会で導入している医療用SNS(MCS)を活用し、ケアマネジャーや訪問看護師、薬剤師など、患者さんに関わるスタッフの間で状態を共有しています。
ご家族が訪問に立ち会えないときにも、随時ご報告できます。
当院の訪問診療は医師2名体制です。
循環器内科の荒井順子医師と交代しながら、どちらかが訪問診療に出ている間は、もう一名が外来を担当し、患者さんの情報は常に共有しています。
*6:国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)令和6(2024)年推計」によると、65歳以上に占める一人暮らしの割合は、2020年から2050年にかけて男性で16.4%から26.1%へ、女性で23.6%から29.3%へ上昇すると推計されている。
次の患者さんのために。「為せば成る」の精神で前進し続ける

―座右の銘を教えてください。
稲見:「為せば成る 為さねば成らぬ 何事も 成らぬは人の 為さぬなりけり」という上杉鷹山の言葉です。
これまで、できなかったこと、悔しかったことを、「次の患者さんに何をして差し上げられるか」に変えることの積み重ねで歩んできました。
コウノメソッドも、KM-CARTも、自家がんワクチンも、ダイエット外来も、その一環です。
―最後に、受診を迷っている読者へメッセージをお願いします。
稲見:原因のはっきりしない不調や、特定の診療科に収まらない悩みがあるときは、まず当院にご相談ください。
お話を伺い、診察をしたうえで、当院で対応できることは当院で、専門的な治療が必要な場合は適した医療機関におつなぎします。
通院が難しくなってきた方や、ご家族の介護で困っている方も同じで、訪問診療に切り替える時期や費用のご相談にも応じています。
患者さんご本人だけではなく、ご家族を含めてトータルにケアをさせていただいて、皆さんが笑顔で過ごせる医療機関でありたいと思っています。
どんな些細なことでもかまいませんので、お気軽にご相談ください。
稲見院長は、診療で生じた課題を次の患者さんへの対応にどう生かすかを常に考え、行動してきた。
認知症診療やKM-CARTなど、診療の幅を広げてきた背景には、必要な選択肢を増やしてきた経緯がある。
外来で関わってきた患者さんが通院できなくなれば訪問診療へ切り替え、自宅で可能な対応を続ける。
診療の場が変わっても、患者さんや家族が無理なく続けられる方法を考え、必要な医療を届けるという基本的な姿勢は変わらない。
そうした地域のかかりつけ医としての役割を、173総合内科クリニックは担い続けている。
173総合内科クリニックについて

| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| クリニック名 | 173総合内科クリニック |
| 院長 | 稲見光春(いなみ みつはる) |
| クリニック紹介 | 2011年開院。総合内科の外来診療と訪問診療を、ほぼ半々の時間配分でおこなう。生活習慣病を中心とした外来のほか、認知症の診療(コウノメソッド実践医)、腹水濾過濃縮再静注法(KM-CART)、自家がんワクチン療法(自由診療)、ダイエット外来にも対応。訪問診療は医師と看護師がペアで伺い、看護師がご家族への介護の指導も担う。訪問エリアは三鷹市・武蔵野市・小金井市を中心に、調布市・杉並区・世田谷区の一部。 |
| 所在地 |
〒181-0013 東京都三鷹市下連雀6-8-50 パークスクエア1F |
| アクセス |
JR中央線「三鷹駅」南口よりバス/JR中央線「吉祥寺駅」よりバス(「連雀通り商店街」バス停すぐ) 京王線「久我山駅」「調布駅」「仙川駅」「千歳烏山駅」よりバス |
| 電話番号 | 0422-26-5173 |
| 診療時間 |
9:00〜12:30/15:00〜18:00 ※土曜・第2・第4日曜・祝日は9:00〜12:30のみ 休診:水曜、第1・第3・第5日曜 |
| Webサイト | https://173clinic.jp/ |
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