胸の痛みや動悸、健康診断で指摘された心電図の異常。
心臓のことで不安を抱えても、大きな病院は敷居が高く、検査や結果を待つ時間も長い。
かといって術後のフォローや専門的な検査を、身近な場所で継続的に受けられる機会は、まだ十分ではない。
病院と地域の医療のあいだには、まだ埋まりきらない隙間がある。
東京都杉並区の久我山ハートクリニックは、京王井の頭線久我山駅のそばで循環器内科・内科を掲げ、2025年7月に開院した。
心臓の治療にあたってきた循環器専門医が、その経験を地域の診療に持ち込んでいる。
院長の今村泰崇医師は、大学病院や心臓の専門病院で、重い心臓病の治療に携わってきた。
その現場を経て、術後のフォローや重症の管理まで、地域で担える場所をつくりたいと考えるようになったという。
検査の結果をその場で返して待たせない。
高血圧やコレステロールの段階から、先々を見据えて予防する。
病院と地域の「あいだ」を、今村院長がどう埋めようとしているのか。その取り組みを聞いた。
*1:日本循環器学会 専門医検索
*2:日本内科学会 総合内科専門医名簿
病院と地域のあいだを埋める

―どのような場所を目指して、久我山ハートクリニックを開院されたのでしょうか。
今村:心臓の病気は、心筋梗塞や心不全の治療をした後も、経過をていねいに診ていく必要があります。
ただ、その重い状態をしっかり管理できるのは、大きな病院や大学病院に限られてきました。
私はこれまで、大学病院や心臓の専門病院で、カテーテルを使った弁の治療をはじめ、重い心臓病の治療に携わってきました。
そうした現場にいると、治療そのものは進んでも、その後を地域で受け止める場所が足りないと感じることが多かったのです。
手術や入院を終えた方が、身近な場所でも同じように診てもらえる。
そういうクリニックが、病院と地域のあいだには必要だと考えました。
当院は、循環器に重きを置きながら、その「あいだ」を埋めることを目指しています。

―「病院と地域のあいだ」とは、具体的にはどういうことでしょうか。
今村:本来は、大きな病院が手術や入院を担い、地域のクリニックが日々の外来やその後のフォローを担う。
そうやって役割を分けるのが自然だと考えています。
ただ、その橋渡しが、まだうまくいっていない部分があります。
大きな病院と同じ水準で診られるクリニックがあれば、病院の側も、その後を託しやすくなります。
患者さんにとっても、遠くの大きな病院に通い続けなくても、身近な場所で診てもらえます。
当院では、近隣の病院と連携し、入院や手術が必要なときにはすぐに紹介して、その後は地域で引き受ける。
そういった流れをつくることを大切にしています。
たとえば、当院で紹介状を書いてお願いした場合も、紹介先での経過は、きちんとこちらに共有されます。
入院や手術が済んだら、また当院で引き継いで診ていく。
その行き来がスムーズにできることが、患者さんにとっての通いやすさにつながっていきます。
心臓のことで気になることがあれば、まずは身近なところで相談できる。
その入り口でありたいと考えています。
検査の結果を、その場で。待たせない工夫

―このクリニックでは、検査の結果を早く返すことを大切にしていると伺いました。どのような体制なのでしょうか。
今村:心臓の病気は、状態が急に変わることがあります。
だからこそ、検査をして結果が出るまでに時間がかかると、その分、対応も遅れてしまいます。
当院では、採血を院内で行い、その日のうちに結果をお返しできるようにしています。
たとえば腎臓の働きを示す数値は、心不全の状態を見極めるうえでも大切なのですが、これもその場で確認できます。
心電図を長時間記録する検査も、装置を外したその日のうちに私自身が解析し、結果をお伝えします。
結果を聞くためだけに、後日あらためて足を運んでいただく。
その手間を、できるだけなくしたいと考えています。
その場で結果が分かることは、時間の短縮だけが目的ではありません。
数値をすぐにお見せできれば、今どうすべきかをその日のうちに一緒に考えられます。
検査から、治療、そしてその先の予防までを、途切れさせずにつなげていく。
そのための、当日の結果なのです。

―検査そのものにも、独自の仕組みを取り入れているそうですね。
今村:取り入れてはいますが、大切なのは道具ではなく、それで何を見つけられるかです。
当院では、AIを活用して心電図の判読を補助する仕組みを取り入れています。
心電図は、不整脈や狭心症などのわずかな異常を見つけるための大事な検査です。
専門医としての目に、こうした仕組みの解析を重ねることで、小さな変化を見落とさないように努めています。
また、ふだん身につけている腕時計型の機器で記録した心電図を持ち込んでいただき、それをもとに相談する外来も設けています。
動悸のように、受診時にはおさまっていることの多い症状も、記録が残っていれば手がかりになります。
気になったそのときの状態を、できるだけ取りこぼさないように診ていく。
そのための工夫を重ねています。
高血圧やコレステロールの段階から。「最初の一歩」に気づく

―予防に力を入れていると伺いました。どのような考えからでしょうか。
今村:心臓の大きな病気は、ある日突然始まるように見えて、実はその前に長い時間をかけて進んでいることが少なくありません。
高血圧や、コレステロールの値の異常、糖尿病といった状態が、少しずつ血管に負担をかけていきます。
ですから当院では、そうした段階から、5年後、10年後、20年後の体を見据えて診ていくことを大切にしています。
心電図に現れたわずかな変化のような、最初の小さなサインに早く気づいておく。
その一歩に早く気づければ、大きな病気になる前に手を打てる可能性が高まります。
できるだけ長く、元気に過ごしていただく。
そのための入り口が、予防だと考えています。
―予防のために、具体的にはどんなことをしているのでしょうか。
今村:たとえばコレステロールの値が高い方に、「下げましょう」とお伝えするのは簡単です。
ただ、言葉で伝えるだけでは、実際の数値がなかなか下がらないことも少なくありません。
当院では、その日のうちに採血の結果をお見せして、今どの位置にいるのかを一緒に確認します。
数字を目にしていただくと、自分のこととして受け止めやすくなります。
そのうえで、目標を決めて、実際に下がるところまで一緒に取り組んでいきます。
下げるといっても、いきなり薬に頼るわけではありません。
食事や運動といった生活習慣を見直すことで、数値が変わっていく方もいらっしゃいます。
まずはそうしたところから、一緒に取り組んでいきます。
必要な場合には、より踏み込んだ治療を選ぶこともあります。
何ともなければ、それを確かめて帰っていただければいい。
心配なことがあるかどうかを確かめられる場として、気軽に使っていただきたいと考えています。
世間話から始める問診と、近い距離

―診察では、どんなことを大切にしていますか。
今村:一見すると病気とは関係のなさそうな、世間話のようなところから伺うようにしています。
どんな暮らしをしているのか、ご家族はどんな状況なのか。
そうした背景が分かると、症状の見え方も変わってきますし、その方に合った提案がしやすくなります。
血圧一つとっても、生活のなかに原因が隠れていることは少なくありません。
たとえば、仕事や家庭で強い負担を抱えている時期に、血圧が上がっていることもあります。
世間話のなかから、そうした背景がふと見えてくることは少なくありません。
数値の裏側にある暮らしまで含めて診ないと、本当の原因にはたどり着けないと考えています。
ですから、一人ひとりにできるだけ時間をかけて、話を伺うようにしています。
検査の数字だけでなく、その人自身を診る。
そこを大切にしたいと考えています。
―患者さんとの距離の近さも、このクリニックの特徴なのでしょうか。
今村:大きな病院だと、受診するのに一日がかりになったり、待ち時間が長かったりして、足が向きにくいという方もいらっしゃいます。
電話をしても、なかなか医師に直接つながらない、ということもあります。
当院は身近な場所なので、「今から行ってもいいですか」という電話にも、その日のうちにお応えできることがあります。
気になったときに立ち寄って、直接話ができる。
その距離の近さは、地域のクリニックだからこそ持てるものだと思っています。
特別に大きな不安がなくても、来ていただいて構いません。
「ちょっと気になるから確かめておきたい」。
そのくらいの気持ちで立ち寄れる場所であることを、大切にしたいのです。
心臓のことは、少しの不調でも心細くなりやすいものです。
だからこそ、心配なことがないかどうかを確かめに、気軽に使っていただきたいと考えています。
医師を志し、循環器にたどり着くまで

―今村院長が、医師を目指すようになった経緯を教えてください。
今村:医療とはまったく縁のない家庭で育ちました。
父も母も医療の仕事ではなく、身近に医師がいたわけでもありません。
高校時代はむしろ理系で、理工学部へ進もうと考えていたくらいで、医師になる自分の姿は思い描いていませんでした。
転機になったのは、高校一年のときのことです。
それまで当たり前のように隣にいた親しい友人を、突然亡くしました。
なぜ亡くなったのか、はっきりとした理由も分からないままで、身近な人がある日いなくなるということを、初めて経験しました。
その出来事があってから、人の命に関わる仕事に就きたいという思いが、自分のなかで少しずつ育っていきました。
理系で培ったものを、人の体や命のために使いたい。
そう考えるようになって、進路を医学へと切り替えました。
―数ある診療科のなかで、循環器を選んだのはなぜでしょうか。
今村:目の前で誰かの容体が急に変わったとき、すぐに動いて助けられる。
そこを大事に考えると、迷わず循環器でした。
心臓は、止まってしまえば数分を争う臓器です。
その一方で、その場ですぐに処置をすれば、助けられる可能性がある領域でもあります。
心筋梗塞のように、まさに目の前で起きたことに対して、自分の手で対応できます。
循環器は、内科的な治療だけでなく、緊急のときには人工心肺のような手立てまで動かせる領域です。
急な場面に自分で駆けつけて、処置をして、最後まで見届けて、その方を日常へ返す。
一連の流れを、自分の手で担いきれる。
それがいちばん実感できるのが循環器内科だと感じて、この道を選びました。
大きな病院での経験が、予防の思いに変わるまで

―大学病院や専門病院での経験のなかで、今の診療観につながっている出来事はありますか。
今村:大学病院にいたころ、心臓移植の現場に立ち会ってきました。
移植を受けられた方もいれば、その機会を得られないまま亡くなった方もいました。
日本では臓器を提供する方がまだ少なく、移植を待つ期間はどうしても長くなります。
その間を、補助人工心臓という装置で命をつなぎながら、ご本人やご家族とともに過ごすこともありました。
最後まで見届けることになった方もいます。
それでも、「最後まで一緒に診てもらえてよかった」と言っていただくことがありました。
そうした重い現場を知っているからこそ、思うことがあります。
本当はもっと手前の、心電図に現れたわずかな変化のような早い段階で気づいて、大きな病気になる前に手を打てたら、と。
その思いの積み重ねが、予防を大切にする姿勢につながっています。
―地域で開業するという道を選ぶうえで、影響を受けた人はいますか。
今村:研修医のころに指導していただいた、ゆみのハートクリニックの弓野大先生の存在が大きかったです。
在宅医療の分野で、先駆的な取り組みを重ねてきた先生です。
それまで在宅医療というと、自宅で最期を看取るという印象が強くありました。
しかし弓野先生は、自宅にいながら、その人の望む形で、医療を届けていました。
大学を離れても、地域でここまでの医療ができる。
そして、大きな病院で足りていない部分を、地域が補える。
その姿を間近で見て、自分も、まだ整っていないところをゼロからつくってみたいと思うようになりました。
専門病院で心臓の治療に一通り携わり、一つの区切りを感じたこともありました。
一方で、その治療のあとを地域で受け止める場所がない。
それなら自分がつくろうと、この場所を開くことにしたのです。
より重い状態の方も、地域で診られるように

―これから、このクリニックで実現していきたいことはありますか。
今村:今は外来を中心に診ていますが、いずれは、もっと重い状態の方も地域で診られるようにしたいと考えています。
たとえば、心臓の働きを助ける装置をつけている方が、大きな病院に通い続けなくても、身近な場所で管理を受けられる。
そうなれば、通院の負担はずいぶん軽くなりますし、体調が許せば旅行に出かけることもできます。
大きな病院まで頻繁に通うのは、体力のいることです。
それが身近な場所で済むだけでも、暮らしの負担はずいぶん変わります。
そうして、住み慣れた地域で最期まで過ごすという選択も、支えられるようにしていきたいのです。
これまで病院でしか診られないとされてきた状態を、少しずつ地域へ広げていく。
病院と地域のあいだを埋めるという当院の役割を、その先まで届けていきたいと考えています。
心臓を診る場所を、誰もが入りやすい場所に

―クリニック名に「ハート」という言葉を選んだのは、どうしてでしょうか。
今村:「循環器」という言葉は、漢字で書くと硬い印象があり、そもそも何を診るところなのか、一般には伝わりにくいところがあります。
心臓の病気を経験した方でなければ、なじみのない言葉かもしれません。
その点、「ハート」なら、なじみやすく、伝わりやすいだろうと考えました。
それに、ハートフルという言葉があるように、温かみのある響きもあります。
だからこそ、誰が見ても分かる、入りやすい名前にしたいと考えました。
心臓を診る場所であることと、温かく迎える場所でありたいという思いを、この名前に込めています。

―最後に、心臓のことで受診を迷っている方へ、メッセージをお願いします。
今村:心臓のことは、少しの不調でも心細くなりやすいものです。
胸のあたりが気になる、動悸がする、健康診断で心電図の異常を指摘された。
そうしたとき、大きな病院は一日がかりになったり、待ち時間が長かったり、電話をしても医師になかなかつながらなかったりして、足が向きにくいことがあります。
その点、身近なクリニックであれば、「今から行ってもいいですか」という電話にも、その日のうちにお応えできることがあります。
立ち寄って、直接顔を見て話せる。
その距離の近さを、大切にしています。
そして、受診して何ともないと分かること自体に、大きな意味があります。
まだ病気とは言えない段階の方にこそ、心配なことがないか確かめに、気軽に足を運んでいただきたいのです。
そのうえで、その方のなかにある小さな変化は、ていねいに診ていく。
迷ったらまず相談できる、地域の心臓のかかりつけでありたいと考えています。
今村院長の話から一貫して伝わってきたのは、病院と地域の医療のあいだにある隙間を、自分の手で埋めようとする姿勢だった。
大学病院や専門病院で、重い心臓病の治療に携わってきた。
心臓移植を待ちながら、その日を迎えられなかった患者を看取ったこともある。
そうした重い現場を知っているからこそ、もっと手前の小さな変化に気づき、大きな病気になる前に手を打つことへ目が向く。
検査の結果をその日のうちに返して待たせない。
高血圧やコレステロールの段階から、先々を見据えて診る。
世間話のようなところから、その人の暮らしごと受け止める。
いずれも、病院ではこぼれ落ちやすいものを、地域で拾い直そうとする試みだ。
もともと今村院長が循環器を選んだのは、目の前で急を要する人に、その手ですぐ動けるからだった。
心臓は、処置が間に合えば、その人を日常へ返せる領域でもある。
専門病院での経験を経て、いまはその手ごたえを、久我山の駅前で心臓のかかりつけであろうとする診療につなげている。
心臓のことで心細くなったとき、まず相談できる場所がある。
その入り口として、久我山ハートクリニックは地域に立っている。
久我山ハートクリニックについて

| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| クリニック名 | 久我山ハートクリニック |
| 院長 | 今村泰崇(いまむら やすたか) |
| クリニック紹介 | 2025年7月、東京都杉並区に開院した循環器内科・内科のクリニック。大きな病院で心臓の治療にあたってきた循環器専門医が、術後のフォローや重症の管理、そして高血圧やコレステロールの段階からの予防までを、地域で一貫して診ている。院内での採血の当日結果や、心電図解析を補助する仕組みなど、待たせない工夫を重ねている。 |
| 所在地 |
〒168-0082 東京都杉並区久我山4-1-7 1F |
| アクセス | 京王井の頭線「久我山」駅から徒歩1分。提携駐車場あり |
| 電話番号 | 03-3331-5100 |
| 診療時間 |
9:00〜13:00/15:00〜18:30 ※土曜は午前のみ 最終受付は午前12:30・午後18:00 休診日:日曜・祝日 |
| Webサイト | https://www.kugayama-heart.com/ |
| 公式メディア |
YouTube https://www.youtube.com/@dr.imamura/videos |
| ご予約 | Web予約・電話予約。オンライン診療あり |