京急蒲田駅から徒歩2分の場所にある心療内科・精神科の「藤村クリニック」は、1997年(平成9年)6月の開院以来、漢方や臨床動作法も取り入れながら、小学生以上の子どもから大人まで、幅広い年齢層を対象に診療を続けてきた。
日本語のほか、英語とイタリア語での診察に対応している点も特徴だ。
京都大学法学部を卒業して住友商事に勤めたのち、医学部に入り直して精神科医になったという経歴を持つ藤村敬二院長に、日々の診療で大切にしていること、精神科医になるまでの歩み、そして診療を続ける原動力について話を聞いた。
*1:藤村クリニック「院長紹介」
*2:公益社団法人日本精神神経学会「専門医・指導医検索」「認知症診療医検索」
話を聞くことを中心に。薬だけに頼らず、その人に合う方法を考える

ー日々の診療で軸にしていることを教えてください。
藤村:精神科は、話を聞くことが診療の中心です。
症状をはじめ、家族構成や学校・仕事のことなど、患者さんの背景も聞いていきます。
そうした背景を知ることで、症状だけでは見えない背景を整理できることがあるからです。
診療の手がかりとして、話せる範囲で聞かせていただければと思います。
お話を伺ったうえで、必要性を判断しながらお薬を処方します。
認知行動療法の考え方を取り入れた助言をおこなうこともあります。
ー処方について、特徴はありますか。
藤村:西洋薬を中心に、症状や状態を確認しながら、保険診療の範囲内で漢方薬を選択肢とすることもあります。
精神的な要因との関連が考えられる身体症状、たとえばめまいや痛み、震えなどについてもお薬を検討します。
薬で症状を整えることは重要な治療の一部ですが、薬だけで治療を完結させるのではありません。
症状が和らいだ段階で、環境や考え方、物事の受け止め方を見直し、自分がどの程度のストレスで不安定になりやすいのかを知ることも大切です。
ー薬以外に、日常生活のなかで勧めていることはありますか。
藤村:考え続けて疲れている方には、短い時間でも頭を休めるようにお話ししています。
座って呼吸に意識を向けたり、歩くときに自分の歩き方や身体の動きに意識を集中したりと、瞑想することがおすすめです。
雑念を無理になくそうとするのではなく、浮かんできても受け流し、何も考えない時間を持ってみてください。
ーカウンセリングの体制についても教えてください。
藤村:3名の臨床心理士(カウンセラー)が勤務しています(*3)。
5年から15年ほどの経験を持っています(*3)。
まず私が診察し、カウンセリングが合うかどうかを判断したうえで、日程を調整します。
*3:体制・経験年数はいずれも2026年8月インタビュー時点、藤村クリニック調べ
身体の緊張にも目を向ける。臨床動作法とストレスリダクション

ー身体への働きかけを診療に取り入れていた時期もあるそうですね。
藤村:身体の動作やそのときに生じる感覚を通して心理面に働きかける臨床動作法を、身体症状の強い方などに提案していました(*4)。
その後、臨床動作法の延長として、一般社団法人ウエルライフ推進協会の理事長を務める吉川吉美先生が開発した「ストレスリダクション」を学びました。
吉川先生は、元愛知学院大学心理学科教授で、臨床心理士や臨床動作士として心理臨床と臨床動作法に長く携わってきた方です。
ブリーフサイコセラピー(短期精神療法)のグループを通じて知り合いました(*4)。
ストレスリダクションは、臨床動作法などを背景に、身体の緊張を自分の力で緩められるよう支える方法です。
一見マッサージやストレッチに似ていますが、身体に触れながら力の抜き方を一緒に探っていく施術です(*4)。
現在は、患者さんの状態に応じて、簡単な動作法であればおこなうことが可能です(*5)。
*4:日本臨床動作学会「臨床動作法とは」/一般社団法人ウエルライフ推進協会「ストレスリダクションとは」「吉川吉美プロフィール」
*5:実施状況は2026年8月インタビュー時点、藤村クリニック調べ
小学生から大人まで対応。一人の患者さんに長く寄り添える

ー大人にくわえて、小学生以上のお子さんも診療している点が特徴的です。
藤村:研修医のころに小児を診るグループへ参加し、大人の診療と並行してお子さんも担当しました。
その経験があったため、スムーズにお子さんの相談を受け入れることができました。
開業当初からお子さんが多かったわけではなく、診療を続けるなかで、少しずつ相談が増えていきました。
ー患者さん全体のうち、お子さんはどれぐらいいらっしゃいますか。
藤村:高校生未満のお子さんは、患者さん全体の1〜2割ほどです(*6)。
子どものころから通い始め、成人後も診察を続けている方もいます。
*6:2026年8月インタビュー時点、藤村クリニック調べ
家族からも状況を聞き、根気よく伴走

ー子どもの患者さんは、どのような相談が多いのでしょうか。
藤村:発達障害や不登校などが目立ちます。
不登校に発達障害が関係している場合もあります。
ほかには、インターネットとの付き合い方について相談されることもあります。
診察では、ご本人の様子だけでなく、ご家庭や学校でどのように過ごしているかも伺います。
相談内容に応じて、臨床心理士による心理検査やカウンセリングを提案し、その方に必要な支え方を一緒に考えます。
ーお子さん本人が来院できないこともあると伺いました。
藤村:たとえば反抗挑発症(反抗挑戦性障害、ODD)やパニックのような症状によって、ご本人が途中から来院できなくなることがあります。
その場合は、ご家族から状況を伺い、処方をおこないます。
ご本人が来院できない時期にも、ご家族から得られる情報は大切です。
ご家庭での様子や困りごとを継続的に伺い、その時点で可能な関わり方を考えます。
親御さんが根気よく通われ、お子さんの症状が改善した例も結構あります。
ーお子さんの診療ならではの特徴はありますか。
藤村:お子さんの場合は特に、年齢を重ねて症状が和らいだり、変化したりすることがあり、時間が良き治療者であるともいわれます。
それまでの傷つきをできるだけ少なくするために、時間をかけて支えることが私たちの役目です。
薬物療法や通院など、その方に必要な方法を検討しながら関わり続けることが大切です。
日本語のほか、英語とイタリア語での診察にも対応

ー診察は、日本語のほかに英語とイタリア語でも受けられると伺いました。どのような患者さんがいらっしゃるのでしょうか。
藤村:アメリカやイギリスの方のほか、イタリアやフランスなどのヨーロッパ、パキスタンやフィリピン、中国など、アジアの方も来院されています。
日本に住んでいる方、留学中の方、日本の会社に勤めている方など、背景はさまざまです。
言葉をその場で聞き、細かなニュアンスを確認しながら直接やり取りできることはメリットだと思います。
精神科の診察では会話が大きな手がかりになるため、言葉の選び方や間も含めて受け取れることに意味があると感じています。
ー外国の患者さんの症状に、日本の患者さんとの違いはありますか。
藤村:基本的には変わりません。
うつ、不眠、気分の沈みなどに関する相談があります。
異国で暮らしていることだけでなく、会社や仕事での人間関係が受診のきっかけになることもあります。
日本人との間だけでなく、外国人同士の人間関係で悩む方もいます。
商社勤務から医学部へ。消えなかった心理学への関心

ーここからは、先生ご自身のことを伺います。京都大学法学部から住友商事に進み、そこから医学部に入り直されています。どのような経緯だったのでしょうか。
藤村:高校生のころ、岩波新書の心理学関係の本をよく読んでいました。
人格の構造についていろいろ書かれているのが面白く、心理の道に進みたいという気持ちがありました。
ただ、親類にはサラリーマンが多く、親からも「まず文系へ行って、その後に必要なら進み直したらどうか」と言われました。
それで法学部に進み、流れに乗るように住友商事へ入りました。
配属は外国為替に関わる部署でした。
人間関係には恵まれましたが、仕事内容については、自分の進むべき道ではないと感じていました。
そんなとき、書店でユングの本をふと手に取り、「こんな考え方をする人がいるのか」と引き込まれ、心理学への興味が再燃しました。
ー会社を辞めることに、迷いはありませんでしたか。
藤村:それまでのキャリアがすべて消えてしまうのではないか、という不安は大きかったですし、会社員から学生に戻ることへの迷いもありました。
ただ、そのまま商社での仕事を続ける自分を思い描けなかったのは事実です。
心理職と精神科医のどちらに進むかを考え、周囲の助言もあって、最終的に精神科医の道へ進む決断をしました。
その後、佐賀医科大学で医学を学びました。
一方で、会社の同期とのつながりは続いています。
独身寮で一緒だった同期は30人ほどいて、その同期会には、ずっと参加し続けています。
年を重ねるほど、こうした関係はありがたく感じるものです。
ーユングのどこに惹かれたのでしょうか。
藤村:無意識がどこまで人間に影響するのか、という点に強い興味がありました。
私は精神科医で、研究者ではありませんが、診療を通じて、意識にのぼらない心の働きについて考えさせられることがあります。
人が持つ力や心の動きには、自分たちが気づいていない部分があるのではないかという関心は、途切れず続いています。
ー会社員としての経験が、診療に役立っていると感じることはありますか。
藤村:会社員として組織で働いた経験を踏まえて、仕事内容や職場の状況も実感を持って伺い、その方に必要な診療を考えています。
職場の人間関係だけでなく、業務の負担や職場への適応の難しさ、休職・復職に関する相談にも対応しています。
職場での不調を防ぐには、自分の限界を把握し、心身に出る「黄信号」に気づくことも大切です。
眠りにくさやいらだちなど、いつもと違う変化が表れたら、仕事のペースを落とすようにお話ししています。
人から頼まれると断れない方や、期待に応えなければと思いやすい方には、まず自分を大切にすることも必要だと伝えています。
イタリア・トリエステでの研修、語学学習への意欲

ー東京大学で研修を積まれたのち、イタリアに渡られています。
藤村:先輩の医師が学会でイタリア・トリエステの医師と知り合い、私が若手医師として受け入れてもらうことになりました。
トリエステはイタリア北東部、スロベニアとの国境に近い、精神科病院を中心とする医療から、地域を基盤とする支援へ移行した精神保健改革で知られる街です(*7)。
私はもともと海外への興味が強く、住友商事に入ったのもそれが理由のひとつでしたから、その機会に行かせてもらうことにしました。
約1年間、現地の精神保健センターで研修を受けました。
ーイタリア語は、そのときに身につけられたのでしょうか。
藤村:はい。せっかく覚えたので忘れないよう、帰国してからも、インターネットでイタリア人の先生を探して、カフェで1時間ほど会話をするというレッスンを週1〜2回、15年ほど続けました。
英語も同じ時期から、英会話スクールのフリートーキングのコースに通って学びました。
その後、アプリでの学習に切り替え、イタリア語、英語、フランス語の3言語を続けています。
フランス語は、旅行先で少し使えればと思って始めました。
どの言語も短期間で身につけようとするのではなく、学び続けること自体が楽しみになっています。
ー未知の環境に挑戦することがお好きなのですね。
藤村:あまり怖がらずに飛び込んでしまうタイプかもしれません。
イタリアに渡ったときも、英語は十分に話せず、イタリア語でのやり取りもおぼつかず、周りは外国の方ばかりでした。
「言葉もわからないのに、こんなところに来てしまってどうしよう」と思ったことを覚えています。
*7:World Health Organization Regional Office for Europe「Central Asian countries seek secrets to success in community-based mental health reform from Trieste, Italy」(2023年12月19日)
診察のかたわら、ランニングと武術で身体を動かす

ー語学のほかに、プライベートで取り組まれていることはありますか。
藤村:ランニングと武術です。
ランニングは昼休みに5kmほど、近くにある公園を走っています。
暑い時期は歩くこともありますが、よい気分転換になります。
健康管理も兼ねて40歳ごろに走り始め、30年以上続いています(*8)。
中学・高校は柔道、大学はラグビーと、昔から体を動かすことが好きでした。
ー武術についても教えてください。
藤村:やはり40歳ごろ、近くのカルチャーセンターの講座をきっかけに合気道を始め、その後、さらに学びを深めたくなり「大東流合気柔術」に移行しました。
仕事のあとに週2回、稽古に通っています。
思うように技を身につけられない時期もありましたが、辞めたらゼロになる、続けていれば何か得られるかもしれないと考えて続けてきました。
実は、大学時代にラグビーを途中で辞め、後悔した経験があります。
その経験が、一度始めた物事は辞めずに続けてみようという考えにつながっているのかもしれません。
*8:運動習慣は2026年8月インタビュー時点、藤村クリニック調べ
精神科医は天職。人間の奥深さに触れる診療の日々

ー精神科医への転職を改めて振り返るといかがですか。
藤村:この道に来てよかったと思っています。
さまざまな背景の方に出会い、その方の話を聞けることが、この仕事の面白さです。
人が持つ可能性には、いろいろな形があるのだと感じます。
患者さんの話を通じて社会の変化を感じられることも大きな刺激です。
ー最後に、受診を考えている方やご家族へ、メッセージをお願いします。
藤村:精神科の診療は、まずお話を伺うことから始まります。
言葉にまとまっていなくても、うまく説明しようとしなくても構いませんので、困っていることから話していただければと思います。
藤村院長が高校時代に抱いた心理学への関心は、会社員になっても心の底では消えておらず、ユングを通して再燃した。
精神科医としての人生を選び直した院長は、会社員であれば定年の年齢を過ぎてなお、診療から刺激を受ける日々だと語り、元気なうちは続けたいと意欲的だ。
「撮影があるから」とネクタイを締め、質問に一つひとつ自分の言葉で答える姿に、自分自身にも他者にも誠実な生き方が表れている気がした。
インタビューの終わり、「楽しかったです。自分の再発見になりました」と笑ってくれたことが印象に残っている。
藤村クリニックについて

| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| クリニック名 | 藤村クリニック |
| 院長 | 藤村敬二(ふじむら けいじ) |
| クリニック紹介 | 1997年(平成9年)6月開院の心療内科・精神科クリニック。小学生以上の子どもから大人までを対象に診療している。3名の臨床心理士(カウンセラー)が在籍し、臨床心理・神経心理検査やカウンセリングにも対応。家族相談も受け付けている。日本語のほか、英語・イタリア語でも診察している。外国語での初診は公式サイトの英語版・イタリア語版で予約方法の事前確認が必要。 |
| 所在地 |
〒144-0035 東京都大田区南蒲田1-1-23 ファインクレスト羽鳥203 ※クリニック入口はビル裏側 |
| アクセス |
京急本線「京急蒲田駅」から徒歩2分 JR・東急「蒲田駅」から徒歩15分 |
| 電話番号 | 03-3733-1345 |
| 診療時間 |
月・火・金 9:00〜12:30/15:00〜17:30 水 9:00〜12:30/15:00〜19:30 土 9:00〜11:45/13:00〜14:30 休診:木曜・日曜・祝日 |
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