内科 インタビュー

「糖尿病治療は患者が主役」。β細胞研究で培った知見が支える、さいしょ糖尿病クリニックの継続医療

更新日:2026/06/21
税所 芳史

インタビュー

税所 芳史

「糖尿病治療は患者が主役」。β細胞研究で培った知見が支える、さいしょ糖尿病クリニックの継続医療

GLP-1受容体作動薬の登場により、糖尿病治療の選択肢は広がりを見せている。

GLP-1受容体作動薬は血糖を下げる作用に加えて食欲の抑制や体重減少も期待できるとされ、セマグルチド(オゼンピック、リベルサス)やチルゼパチド(マンジャロ)などが処方される場面が増えてきた。(*1)

一方で、こうした薬剤は糖尿病専門医以外の医療機関でも処方されるようになり、自由診療やオンライン診療の領域にも広がりつつある。

そうした中で、糖尿病専門クリニックとして患者と長く向き合っているのが、東京都中野区の「さいしょ糖尿病クリニック」だ。

同院は2022年に開院し、駅近の通いやすさと、生活習慣の適正化を土台にした診療方針を掲げている。

さいしょ糖尿病クリニック 税所 芳史 院長
さいしょ糖尿病クリニック 税所 芳史 院長

院長を務める税所芳史医師が大切にしているのは、「糖尿病治療は患者自身が主役となるべき」という診療観だ。

慶應義塾大学医学部での研鑽と米国留学を経て、糖尿病の根本にあるβ細胞の働きを組織レベルで研究してきた経験が、その姿勢の土台にある。

多様な薬剤が次々と登場する時代に、糖尿病専門クリニックは患者にとってどのような場所であるべきなのか。

税所院長の歩みと診療観に迫った。

*1:日本糖尿病学会「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)」(2023年11月公開)

さいしょ糖尿病クリニック
税所 芳史
税所 芳史
院長
東京都新宿区出身。2000年、慶應義塾大学医学部を卒業後、同大学医学部内科学教室に入局し、糖尿病・内分泌内科を専攻。米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)に3年間留学し、膵臓のβ細胞と糖尿病の関わりを組織レベルで研究。帰国後、慶應義塾大学病院腎臓内分泌代謝内科の助教、専任講師を歴任し、日本人を対象とした同分野の研究を継続。2022年1月、東京都中野区に「さいしょ糖尿病クリニック」を開院。「糖尿病治療は患者が主役であるべき」という診療観のもと、生活習慣の調整を土台に置きながら、患者一人ひとりに伴走する診療を続けている。日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・指導医(*2)。日本内科学会認定 総合内科専門医(*3)。

*2:一般社団法人 日本糖尿病学会
*3:一般社団法人 日本内科学会

「医者を選んでもらう」。クリニック名に地名を入れなかった理由

受付の様子
受付の様子

―さいしょ糖尿病クリニックの開院の経緯についてお聞かせください。

税所:私が大切にしているのは、患者さんに医者を選んでいただくということです。

クリニック名にあえて地名を入れず、自分の名前だけにしたのも、その姿勢を形にしたかったからです。

「中野で糖尿病のクリニックを探していたら、たまたまここがあった」という入り方ではなく、「税所という医師に診てもらいたい」と思って来てくださる方に、しっかり向き合いたいと考えています。

そのため、自分の考え方をホームページにできるだけ率直に書いてきました。

糖尿病という病気をどう捉えているか、どんな治療方針で臨んでいるか。

それを読んだ上で来てくださる方とは、初診の段階からスムーズに話を進めることができています。

医師との相性は、長く治療を続けていく上でとても大事な要素です。

糖尿病は慢性疾患で、一度治療を始めれば長期にわたって管理していく病気ですから、診療方針の合致する医療機関を選択することが、結果として患者さんにとって有益であると思っています。

ですから私は、患者さんにも医師をきちんと選んでほしいと考えていますし、その判断材料になるよう、自分の診療観をできるだけオープンにしてきました。

―大学病院の勤務医時代との違いを感じる部分はありますか。

税所:大学病院では、患者さんは「大学だから」「総合病院だから」という理由で来られる方がほとんどです。

その中でたまたま私の外来に当たる、という形になります。

もちろん責任を持って診療していましたが、私を指名して来てくださるという関係性は、なかなか生まれにくい環境でした。

開業するにあたっては、その点を変えたいという思いがありました。

「税所芳史というひとりの医師に診てほしい」と思って来てくださる方に向き合うことが、自分にとってのやりがいにもつながると考えたのです。

そのため、開業地を中野に決めたあとも、クリニック名に「中野」という地名を入れることはしませんでした。

私の考え方に共感して来てくださる方がいるなら、その方々と長く付き合っていける関係性を築くことができたら、と考えています。

GLP-1製剤がもたらした転換と、糖尿病専門医に求められる役割

さいしょ糖尿病クリニック 税所 芳史 院長
さいしょ糖尿病クリニック 税所 芳史 院長

―「マンジャロ」などをはじめとしたGLP-1受容体作動薬の登場で、糖尿病治療の景色が変わってきていると伺います。この変化をどう捉えていらっしゃいますか。

税所:糖尿病の治療オプションが増えたことは、私自身は素直に歓迎しています。

適正な体重管理は患者さんのQOLを大きく高めることに繋がりますから、その実現をサポートできる薬が登場したこと自体、目の前の患者さんにとって本当に有益なことだと感じています。

GLP-1受容体作動薬が登場するまでは、体重管理のために臨床で頼れる薬は限られていました。

生活習慣を調整しても結果が出にくい方に対しては、肥満外科治療といって、胃を小さくしたりバイパスしたりする手術が選択肢として注目された時期もありました。

外科的アプローチにより大幅な減量が達成され、それまでインスリンを使っていた糖尿病の患者さんでも、薬なしで血糖がほぼ正常な状態に近づくケースが出てきました。

薬や生活習慣の指導を本分とする内科医としては、外科的手法で減量を図ることに当初は戸惑いもありました。

しかし、内科的なアプローチだけでは限界があることも現実として感じており、手術という選択肢が注目されるのもある意味では自然な流れだと受け止めていた時期でもありました。

そこに登場したのが、GLP-1受容体作動薬でした。

手術をしなくても週1回の注射で体重管理を企図することが期待できるようになり、内科的な薬物療法が一気に普及していきました。

さらに減量だけでなく、心筋梗塞や脳梗塞といった動脈硬化性疾患や腎臓の予後改善にも寄与するという報告(*4)もあり、循環器や腎臓を専門とする先生方も積極的に処方されるようになっています。

糖尿病の枠を超えて使われる薬になってきている、というのが2026年現在の状況です。

―一方で、自由診療やオンライン診療など、糖尿病専門医以外の領域でも処方される場面が広がっています。この現状については、どのようにお考えですか。

税所:保険適用外の方、つまり肥満傾向も健康障害もない方に目的外の減量目的で処方するというのは、保険診療とは別のレベルの話になりますので、そこを推奨することはできません。

ただ、実際に肥満傾向にあり、健康障害もありそうな方がオンラインで保険診療として処方を受けているケースもあります。

そのこと自体を否定するつもりはありません。

その上で、糖尿病専門医として私が大切にしているのは、薬を出せば糖尿病が良くなるという考え方ではなく、生活習慣を整えることを治療の土台に置く、という順序です。

今後開発される薬がどれだけ効果的になっても、生活習慣を整えることなしに糖尿病治療が完結することはないと、私は考えています。

薬で一時的に体重が落ちても、生活習慣が変わらなければ、薬を止めた途端に元に戻ってしまう。

それでは、その方の人生にわたる治療にはなりません。

だからこそ、いかに生活習慣にこだわり続けられるか。

それが糖尿病専門医として私たちが提供できる価値だと考えています。

*4:日本糖尿病学会「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)」(2023年11月公開)

論文との出会い。膵臓のβ細胞が示した、糖尿病治療の本質

待合スペースから診察室へと続く通路
待合スペースから診察室へと続く通路

―生活習慣を治療の土台に置く、という診療観の背景には、先生ご自身の研究経験もあるとお聞きしました。留学先で取り組まれた研究について教えてください。

税所:医学部を卒業して内科に進み、糖尿病・内分泌内科を専攻する中で、一つ気になっていたことがありました。

治療に真面目に取り組んでいるにもかかわらず、血糖値が下がらない、悪化してしまう方が一定数いらっしゃいます。

医学部で習う糖尿病は、1型はβ細胞が自己免疫で破壊されて生活習慣とは関係ない病気、2型は生活習慣が乱れた結果としての病気、と整理されていました。

ですが、実際に診察していると、2型でも全く肥満傾向にない方もいますし、肥満傾向にある方が痩せても血糖値がまだ高いというケースもありました。

生活習慣だけでくくれるような単純な話ではないのではないか、と感じていたのです。

そんなときに出会ったのが、2003年に発表されたバトラー(Peter C. Butler)教授の論文(*5)でした。

私たちの体は食事をすると血糖が上がりますが、それを下げる役割を担っているのが「インスリン」というホルモンです。

インスリンは膵臓の中にあるごく一部の細胞、「β細胞」と呼ばれる細胞が作り出しています。

膵臓は9割以上が消化酵素を作る場所で、β細胞はそのごく一部に島のように散らばって存在しており、このβ細胞の働きが弱まったり、数が減ったりすると、インスリンが十分に作れなくなり、血糖を下げきれなくなってしまいます。

これが糖尿病の病態の根底にある仕組みです。

バトラー教授の論文は、亡くなった方の膵臓の組織を直接観察し、β細胞がどのくらいの量で存在しているかを測定するというものでした。

そして、その量を糖尿病の患者さんとそうでない方とで比較したところ、2型糖尿病の患者さんではβ細胞の量が半分ほどに減っていることが明らかになったのです。

2型糖尿病の方は肥満の症状があり、血液中のインスリンもしっかりと分泌されているため、β細胞はむしろ増えているのではないかと考えられていた時期もありました。

しかし実際に組織を見てみると、減っていたのです。

さらにその原因を調べたところ、新しくできなくなっているというよりも、もともとあったβ細胞が死滅していっているということも明らかになりました。

血液中のインスリン量を測ることはこれまでも行われてきましたが、その値は食事や血糖の状態によって日々変動するため、β細胞そのものが増えているのか減っているのかまでは判断がつきませんでした。

バトラー教授は、膵臓の組織を直接観察することで、β細胞が物理的に減っているという事実を明確に示したのです。

この論文を読んで、これまで臨床で感じていた疑問が私の中ですっきりと整理された思いがしました。

さいしょ糖尿病クリニック 税所 芳史 院長
さいしょ糖尿病クリニック 税所 芳史 院長

―先生ご自身は、どのような研究に取り組まれたのでしょうか。

税所:バトラー教授の研究室があった米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)に留学して、3年間、β細胞の研究に取り組みました。

バトラー教授が明らかにしたのは「2型糖尿病ではβ細胞が減っている」ということでしたが、私が取り組んだのは、その先の問いです。

糖尿病でない方では、β細胞はどのような状態にあるのか。

肥満の方ではどうなっているのか。

年齢を重ねるとどう変わっていくのか。

そうしたことを、米国を代表する医療機関の一つであるメイヨークリニックから提供を受けた検体を用いて調べていきました。

この研究でわかったことは、糖尿病でない欧米人の肥満の方では、痩せている方と比べてβ細胞が5割ほど多かった、ということです。

体重が増えて多くのインスリンが必要になる中で、β細胞も増えてそれに応えている、という状態です。

また、痩せている方であれば、β細胞の量は90代に至るまでほぼ一定に保たれていることもわかりました。

健康な状態であれば、β細胞はそう簡単に減るものではない、ということです。

帰国後は慶應義塾大学に戻り、日本人を対象に同じ研究を行いました。

すると、日本人の場合、肥満の方も痩せている方もβ細胞はほとんど変わらないということがわかりました。

つまり、日本人は、欧米人に比べてβ細胞が増える力が弱いと言えます。

日本人の体格は欧米人よりずっと小さいですから、本来であれば糖尿病になりにくいはずなのですが、実際の発症率は欧米と同じくらいになっています。

体格に対してβ細胞の対応力が追いついていない、ということがこうした研究から見えてくるのです。

この一連の研究を通じて、はっきりしてきたことがあります。

β細胞は、糖尿病になる前の段階から、すでに疲弊して機能が落ちてきている。

そして、いったん糖尿病でβ細胞が減ってしまうと、その後に再生してくることはほとんど期待できない。(*6)

だとすれば、β細胞をいかに減らさず守るかが、糖尿病治療の主軸になってくるはずです。

そして、β細胞を守るためには、薬で一時的に血糖を抑えるだけでは足りず、生活習慣そのものを整えていく必要がある。

仕組みそのものに介入するこうした考え方が、私が今も患者さんと向き合う上での土台になっています。

*5:Butler AE, Janson J, Bonner-Weir S, et al. Beta-cell deficit and increased beta-cell apoptosis in humans with type 2 diabetes. Diabetes. 2003;52(1):102-110.
*6:Sasaki H, Saisho Y, Inaishi J, Itoh H. Revisiting Regulators of Human β-cell Mass to Achieve β-cell–centric Approach Toward Type 2 Diabetes. Journal of the Endocrine Society. 2021;5(10):bvab128.

大学病院からクリニックへ。早期からの伴走を目指して

税所院長の著書『ゼロからわかる糖尿病』(講談社、2024年)
税所院長の著書『ゼロからわかる糖尿病』(講談社、2024年)

―研究を通じて見えてきた診療観を、なぜクリニックという場で実践しようと思われたのでしょうか。

税所:大学病院は、すでに合併症が進んでしまった方や、他の科で治療プロセスにおいて糖尿病が悪化した方が紹介されてくる場所です。

その段階でお会いするのでは、いくら治療を尽くしても、介入できる範囲に限界が生じてしまいます。

β細胞は減ってしまえば再生しないとわかってきた以上、もっと早い段階で患者さんと出会いたいという思いが強くなっていきました。

日本の糖尿病患者は、高齢層を中心に分布しています。(*7)

私が大学病院に在籍していた頃も、外来で診察を行うのは70歳前後の方が中心でした。

ですが、糖尿病という病気はそれよりずっと前から始まっています。

40代、50代の働き盛りの段階で何かしらのサインが出ているケースもあり、その初期段階で適切な治療管理に移行できるかどうかで、その後の予後は大きく変わってきます。

―開院されたのが2022年です。コロナ禍も挟まれていたと思いますが、このタイミングを選ばれたのはどのような理由からでしたか。

税所:いくつかの理由が重なったタイミングでした。

研究に一区切りがつき、蓄積してきた知見を今度は目の前の患者さんに還元する段階に進みたいと考えていたことが大きな理由です。

もう一つ、コロナ禍における経験も大きく影響しました。

緊急事態宣言の中で、自宅にいる時間が増え、医療現場では呼吸器内科の先生方を中心に救急医療の現場が逼迫していました。

そうした中で、糖尿病を専門とする立場から、これまで以上に現場で患者さんと直接向き合える場所に身を置きたいと考えるようになりました。

そう思ったときに、自分が向き合いたい医療の形がはっきりと見えてきたのです。

開業地として中野を選んだのにも理由があります。

私自身が新宿で生まれ育ち、長年勤めた慶應義塾大学病院も新宿に近く、自宅も中野からそう遠くない場所にありました。

慶應義塾大学病院で担当していた患者さんが、もしまた診てほしいと思ってくださったときに、足を運びやすい場所がよいと考えていました。

そうした条件を踏まえつつ、中野区にちょうどよい物件が見つかったことも、後押しになりました。

開院当初は患者さんの数も限られていましたが、ホームページに自身の診療方針を率直に書き、共感してくださる方が少しずつ来てくださるようになりました。

現在は、ホームページから来られる方と、他の医療機関からの紹介で来られる方が、ちょうど半分ずつくらいの構成になっています(*8)。

*7:厚生労働省「令和5(2023)年患者調査の概況」
*8:2026年5月インタビュー時点、さいしょ糖尿病クリニック調べ

患者さんが主役。治療を続けてもらうための問診と対話

慶應義塾大学病院からの「医療連携協力医療機関」認定証(左)と、慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科から贈られた額(右)
慶應義塾大学病院からの「医療連携協力医療機関」認定証(左)と、慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科から贈られた額(右)

―糖尿病の患者さんに治療を続けてもらうために、診療の中で工夫されていることはありますか。

税所治療を続けていただく上で大切なのは、まず患者さんご自身に、糖尿病という病気を理解していただくことだと考えています。

医師が常時付き添うわけにはいきませんし、ご自宅での生活を24時間見守ることもできません。

実際に日々のケアを行うのは患者さんご自身ですから、患者さんが主役にならないと糖尿病治療はうまくいかないのです。

ですから当院では、薬を処方する際にも、なぜこの薬を使うのか、何を目的としているのかを、できるだけご本人にご理解いただいた上でお出しするようにしています。

いくつかの選択肢の中から、ご自身で選んでいただくという形を大切にしています。

生活習慣の調整についても、私から「これでなければいけない」と一方的に押し付けることはありません。

糖質制限が合う方もいれば、脂質制限が合う方もいます。

運動の取り入れ方もそれぞれです。

β細胞を守るという考え方に沿っていれば、進め方には幅があってよいと考えています。

院長の診察室。半円形のテーブルで、患者と向き合いながら対話を重ねていく
院長の診察室。半円形のテーブルで、患者と向き合いながら対話を重ねていく

―患者さんとの対話の中で、特に意識されていることはありますか。

税所長期的に治療を継続していく上で、もう一つ大切なのが、医師と患者さんとの関係性です。

人と人との関係ですから、合う・合わないは必ずあります。

だからこそ私は、ホームページに自分の考え方を率直に書き、それを読んだ上で来てくださる方とお付き合いしたいと考えてきました。

実際に、ホームページを読んだ上で来てくださる方には、初診の段階から話の前提が共有されており、診療をスムーズに進めることができています。

こうした方々は、ご自身の病気についても理解を深めようとしてくださり、治療の継続にもつながっていきます。

私が果たす役割は、医学的な根拠を伝えながら、患者さんが自分に合った方法を見つけていかれるのを支えることです。

コーチングやガイディングのように、伴走者として横を歩いていくような立ち位置でありたいと考えています。

そうした関係性を築けた患者さんは、治療を途中で中断することがほとんどありません。

治療を中断することは、合併症が進んでしまうことにつながりかねません。

合併症を防ぐためにも、いかに通院を続けていただける関係性を築けるかが大切だと考えています。

シンクヘルス、リブレ、G7。個別化治療を支えるIT環境とチーム医療

院内の検査室。体組成計や血圧計など、診療に必要な機器が配置されている
院内の検査室。体組成計や血圧計など、診療に必要な機器が配置されている

―患者さん一人ひとりに合わせた治療を実践する上で、機器の活用やチーム医療の体制づくりにも力を入れていらっしゃると伺いました。

税所:糖尿病治療において、近年「個別化」が大きなキーワードになっています。

食事に対する考え方、運動の取り入れやすさ、お仕事の内容や生活時間帯。

お一人ずつ事情が違いますから、画一的な治療では対応しきれない場面もあります。

そのために、当院ではいくつかのデジタルツールを活用しています。

一つは「シンクヘルス」というアプリです。

糖尿病管理に特化したヘルスケアアプリであり、患者さんがご自宅で測定された血糖値や血圧、体重を入力していただくと、クラウドを通じて当院でも同じデータを共有できる仕組みです。

ご自身で写真を撮って食事の記録を残してくださる方もいらっしゃいます。

写真として残ると、食事の内容だけでなく、量や場面の雰囲気もある程度わかります。

お一人で机に向かって召し上がっているのか、ご家族と一緒に召し上がっているのか。

そうした背景まで含めて、患者さんの日常を理解する手がかりになるのです。

血糖値そのものをより細かく把握するために、「リブレ」や「G7」と呼ばれる持続血糖測定器(CGM)も導入しています。

腕やお腹に小さなセンサーをつけることで、24時間の血糖の動きを連続的に記録できる機器です。

リブレは患者さんご自身もリアルタイムで血糖の数値を確認できるため、「上がってきたな」と気づいたときにご自身で行動を調整できるという利点があります。

G7はリブレよりひと回り小さく、目立ちにくいため、ご希望に応じて使い分けています。

こうしたデータも、先ほどのシンクヘルスと連携してクラウド上で確認できる仕組みになっています。

持続血糖測定器(CGM)の資料。左がDexcom社「G7」のデモセンサー
持続血糖測定器(CGM)の資料。左がDexcom社「G7」のデモセンサー

これらのデータを見ていると、本当にお一人ずつ違うことがよくわかります。

朝はだいたい決まったものを召し上がる方、野菜をしっかり摂れている方、お仕事の合間にどうしても不規則になってしまう方。

細かなデータの全てを一日中眺めているわけにはいきませんから、その方にとって本当に大切なポイントをいかに抽出してお伝えするか。

そこに糖尿病専門医としての経験が活きると考えています。

―診療の中で、看護師さんや管理栄養士さんとの連携も大切にされていると伺いました。

税所:当院には、看護師、糖尿病療養指導士の資格を持つスタッフ、管理栄養士、医療事務という4つの職種が在籍しています。

食事のご相談は、主に管理栄養士が担当します。

クリニックという規模の良さは、医師とスタッフの距離が近く、患者さんとの継続性を保ちやすいことだと感じています。

大学病院に在籍していた頃は、栄養相談をご提案しても、担当する栄養士が曜日によって交代してしまい、その都度はじめから話し直さなければならないという構造的な背景から、患者さんが気後れしてしまう場面が散見されました。

当院では、曜日が同じであれば基本的に同じスタッフが継続して担当します。

管理栄養士もまずは患者さんのお話をじっくり伺い、変えられそうな部分を一緒に探していくというスタイルです。

「これをやってみてうまくいかなければ、次はこちらを試してみましょう」と段階的に進めていくので、患者さんも嫌がらずに続けてくださいます。

食事の調整は、糖尿病治療の土台です。

それを支える管理栄養士の存在は、当院にとって大きな力になっています。

18歳から90代まで。早く、気軽に相談できるクリニックを目指して

院内のHbA1c測定装置。当日に検査結果が出る体制は、早期からの相談・治療開始を支えている
院内のHbA1c測定装置。当日に検査結果が出る体制は、早期からの相談・治療開始を支えている

―実際に来院されている患者さんは、どのような年齢層が多いのでしょうか。

税所:年齢の幅は広く、18歳ぐらいの方から90代の方までいらっしゃいます。(*9)

その中でも中心となっているのは、40代、50代の働き盛りの方々です。

平均年齢でいえば50代ぐらいでしょうか。

先ほどお話しした通り、糖尿病患者さん全体の年齢層は高齢の方が中心です。

私が大学病院にいた頃も、外来でお会いするのは70歳前後の方が中心でした。

当院では、健康診断で引っかかったという方や、これまで受診をためらってきたという方が、40代、50代の段階で来てくださる方もいらっしゃいます。

クリニックという場所のアクセスのしやすさが、早期からのご相談につながっているのだと感じています。

早期から治療に取り組めばそれだけ進行を抑えやすくなり、将来的な合併症の予防にもつながっていきます。

β細胞を守るという観点からも、早期からのアプローチには意味があると考えています。

―最後に、糖尿病という病気について不安を感じていらっしゃる方や、ご家族の中に糖尿病の方がいらっしゃるという読者の方に向けて、メッセージをお聞かせください。

税所糖尿病治療の目標として、私が一番大切にしているのは、患者さんに幸せな一生を送っていただくということです。

合併症の予防もそのための手段の一つであり、日々の生活の質を保っていただくこともその中に含まれています。

糖尿病という病気には、合併症が怖い、というイメージが先行しがちです。

しかし、早めに治療を始めて適切に続けていけば、合併症を予防できる時代になってきています。

怖いから受診しない、検査しない、というのは、かえって逆方向に向かってしまいます。

むしろ積極的に検査を受けて、治療に参加していただきたい、というのが私の考えです。

そのために、できる限り通いやすく、ご相談いただきやすいクリニックでありたい、と考えています。

さいしょ糖尿病クリニック 税所 芳史 院長
さいしょ糖尿病クリニック 税所 芳史 院長

中野駅から近く、受診時の待ち時間も極力短くできるよう努めています。

ホームページにも私の考え方を率直に書いていますので、まずはそれを読んでいただき、ご自身に合いそうだと感じてくださったら、お気軽にご相談にお越しください。

糖尿病は、ご自身一人で抱え込む病気ではありません。

医師や管理栄養士、看護師、スタッフ全員で伴走します。

そうした関係の中で、患者さんが主役となって治療に取り組んでいただけたら、と願っています。

*9:2026年5月インタビュー時点、さいしょ糖尿病クリニック調べ

インタビューを終えて

税所院長の語りから一貫して伝わってきたのは、糖尿病という病気を「医師が一方的に治療するもの」ではなく、「患者と医師が共に取り組むもの」として捉える姿勢だった。
医学部で糖尿病・内分泌内科を専攻し、米国UCLAでの留学を経て、β細胞という糖尿病に関わる細胞の働きを組織レベルで研究してきた。
そこで得られた知見は、薬で症状を抑えるという発想ではなく、β細胞を守るために生活習慣そのものを整えていくという、診療観の土台になっている。
GLP-1受容体作動薬という選択肢が広がる時代において、税所院長は薬の効果を歓迎しつつも、生活習慣の調整から目を逸らさない姿勢を貫いていた。
「いかに生活習慣にこだわり続けられるか」という言葉には、研究と臨床の両方を歩んできた医師としての確かな立ち位置が滲んでいた。
クリニック名にあえて地名を入れず、ホームページに自身の診療観を率直に書き続けてきたこと。シンクヘルスやCGMといったデジタルツールを取り入れ、患者一人ひとりの生活に合わせた個別化アプローチを実装していること。管理栄養士や看護師との継続的な連携を、患者が無理なく続けられる関係性として組み立てていること。
それらは、「患者が主役にならないと糖尿病治療はうまくいかない」という診療観を、日々の現場で形にしていく積み重ねの結果だった。
「糖尿病治療は患者が主役」。
合併症が進んでしまってからではなく、まだ早期の段階で出会いたい。そう願って、税所院長は大学病院の場を離れ、中野で診療所を構えた。β細胞は、減ってしまえば再生しない。だからこそ、減らさないように守るための伴走者として、自身の役割を捉えている。
糖尿病という慢性疾患と長く付き合っていく方にとって、さいしょ糖尿病クリニックの存在は、不安を一人で抱え込まずに済む場所として、頼れる選択肢のひとつになっていくはずだ。

さいしょ糖尿病クリニックについて

さいしょ糖尿病クリニックについて
項目 詳細
クリニック名 さいしょ糖尿病クリニック
院長 税所 芳史(さいしょ よしふみ)
クリニック紹介 2022年1月開院。「糖尿病治療は患者が主役であるべき」という診療観のもと、生活習慣の調整を土台にした診療を提供している。糖尿病・内分泌内科を中心に、高血圧症、脂質異常症、高尿酸血症・痛風、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病、甲状腺の病気をはじめとする内分泌疾患まで幅広く対応。シンクヘルスや持続血糖測定器(CGM)といったデジタルツールを取り入れ、患者一人ひとりの生活に合わせた個別化アプローチと、管理栄養士や看護師との継続的な連携によるチーム医療を実践している。
所在地 〒164-0001
東京都中野区中野5-67-5 SKGT長谷部3階
アクセス JR中央・総武線、東京メトロ東西線「中野駅」北口から徒歩3分
電話番号 03-5942-9393
診療時間 午前 9:00〜12:30 月〜土
午後 14:30〜18:00 月・火・水・金
※休診日:木曜午後・土曜午後・日曜・祝日
※受付は午前12時、午後17時30分まで
Webサイト https://saisho-dc.jp/
ご予約 予約優先(オンライン・電話予約)
インタビューした人
加藤俊
株式会社Sacco 代表取締役
加藤俊
株式会社Sacco代表取締役。一般社団法人100年経営研究機構参与。一般社団法人SHOEHORN理事。週刊誌・月刊誌のライターを経て2015年Saccoを起業。 連載:日経MJ・日本経済新聞電子版『老舗リブランディング』、週刊エコノミスト 『SDGs最前線』、日本経済新聞電子版『長寿企業の研究』