耳鼻咽喉科 インタビュー

「気のせい」「歳のせい」で終わらせない。自らの経験をもとに、日々の不調から原因不明の悩みまで寄り添うはぎの耳鼻咽喉科

更新日:2026/07/25
萩野 仁志

インタビュー

萩野 仁志

「気のせい」「歳のせい」で終わらせない。自らの経験をもとに、日々の不調から原因不明の悩みまで寄り添うはぎの耳鼻咽喉科

つらさ、しんどさを抱えているのに、検査をしても異常が見つからない。

病院を何軒も巡っても「異常なし」「気のせい」と言われ、行き場を失った人たちが訪ねてくるのが、東京都・町田市にある「はぎの耳鼻咽喉科」だ。

「患者さんの訴えには、必ず原因がある」――そう語る萩野医師の診療哲学は、自らが患者として過ごした日々の中で育まれたものだった。

日々の不調から原因不明のつらさを抱える人まで、そして地域だけでなく遠方の人まで、幅広い患者が頼りにする萩野医師に、治療への信念と診療にかける思いを聞いた。

はぎの耳鼻咽喉科
萩野 仁志
萩野 仁志
院長
1958年、青森県生まれ。耳鼻咽喉科専門医(*1)。耳鼻咽喉科開業医の家に生まれ、父が音声治療を専門としていた影響から、特色ある耳鼻咽喉科医を志す。1985年に東海大学医学部を卒業し、1995年にはぎの耳鼻咽喉科を開業。2010年頃からはEAT(上咽頭擦過治療)を本格的に診療へ導入し、日本病巣疾患研究会に所属しながら、耳の疾患のほか腎疾患や難治性の皮膚疾患など幅広い症状にEATを応用している。著書に『謎の「耳づまり病」を自分で治す本』(マキノ出版)などがある。3歳からクラシックピアノを始め、ピアニストとしての顔も持つ。バンド「はぐどばん」のバンドマスター兼ピアニストとして活動し、医療機関でのボランティアコンサートにも参加している。

*1:一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 「専門医名簿検索」(2026年6月インタビュー時点)

「声の診療」と「EAT」。力を注ぐ2つの治療

はぎの耳鼻咽喉科 萩野仁志 院長
はぎの耳鼻咽喉科 萩野仁志 院長

―はじめに、貴院の特徴について教えてください。

萩野:当院は一般的な耳鼻咽喉科の診療に加えて、2つの治療に力を入れています。

一つは音声外来診療と呼ばれる「声の診療」です。

歌手や役者、声優、学校の先生など、声を使うお仕事をされている方が来院されることが多いのですが、一般的な薬剤治療や吸入治療、外来での簡単な発声指導では高いレベルでの要求に対応できないケースがあります。

そこで、より専門的な治療を提供したいと考え、この専門外来を開設しました。

もう一つがEAT(イート:上咽頭擦過治療)という処置です。

加えて、治療に漢方を積極的に取り入れている点も、当院の特徴です。

―声の診療には、どのようなお悩みを持った患者様が来られるのでしょうか。

萩野:お悩みは、挙げればきりがないほど本当にさまざまです。

たとえば歌手や役者の方であれば、「思ったとおりの表現ができない」「高い声は出るけれど中低音が安定しない」「声が響かない」といった悩みがあります。

一方、一般の方では、高齢化に伴って声が出にくくなった方や、気管支ぜんそくの吸入薬を長く続けるうちに声帯が弱って声が出にくい方などがいらっしゃいます。

声を使うお仕事の方に限らず、声のトラブルは誰にでも起こり得るものですから、さまざまな方がいらっしゃいます。

EATの処置で用いる綿棒

―EATとは、具体的にはどのような処置なのですか。

萩野:塩化亜鉛溶液という殺菌剤を含ませた綿棒で、上咽頭という喉の奥の部分をこする治療です。

処置の方法は医師によって異なりますが、当院では内視鏡を用いて、目で確認しながら鼻から処置を行うことを基本としています。

この処置で重要なのは、「薬液を塗って治すものではない」ということです。

薬液はあくまで補助で、表面の薄皮を少し剥がすように丁寧に粘膜をこすり、中にたまったものを外に出してあげるような処置なのです。

イメージとしては、腫れた歯茎に歯ブラシをかけて、引き締まった状態にしていくのに近いですね。

上咽頭に炎症がある場合、最初はこすると出血しますが、処置を重ねるうちに徐々に出血しなくなり、つるりとした健康な粘膜へと整っていきます。

上咽頭の場所
上咽頭の場所

―そもそも「上咽頭」とは、どのような部位なのでしょうか。

萩野:上咽頭は、喉の一番奥の突きあたりの部分です。

口蓋垂の裏側に位置するため、口を開けただけでは見えない場所にあります。

ここは、鼻から吸い込まれた空気の流れの向きが変わる場所で、ほこり・細菌・ウイルスが付着しやすくなっています。

風邪をひいたとき、ウイルスが最初に付着して増殖するのも、この上咽頭なんです。

そのため、上咽頭には侵入してきた細菌やウイルスから体を守るという、非常に重要な役割があります。

表面の細胞の間には、活性化した状態のリンパ球が多数存在しており、健康なときでも常に戦闘態勢で、細菌やウイルスなどの病原体を撃退してくれています。

とはいえ、侵入してきたウイルスや細菌に感染すれば、炎症が起こります。

その最も典型的なものが、いわゆる風邪です。

多くの場合は徐々に回復していきますが、炎症が慢性化し、慢性上咽頭炎になってしまうことがあり、それが全身のさまざまな不調を引き起こす一因になると考えられています。

―処置には出血を伴うとのことですが、痛みや負担への配慮はどのようにされていますか。

萩野:少しでも不安を軽減するため、まず模型を使って、上咽頭の位置や役割を患者様に説明します。

そのうえで、鼻と喉に綿棒やスプレーで簡易的な麻酔を行い、内視鏡を使いながら丁寧に上咽頭をこすっていきます。

EATに限らずどんな処置でも、不意に強すぎる刺激を与えると、迷走神経反射といって気分が悪くなることがあります。

ですから、過剰な刺激は与えず、その患者様に必要な刺激にとどめながらしっかり処置をすることを常に意識しています。

―通院の頻度や、効果が現れるまでの期間の目安はありますか。

萩野:経過には個人差がありますが、当院では通院の頻度は月2回ほどを目安としています。

まずは3か月、回数にして6回ほど受けていただいて効果を見極めます。

効果が期待できそうであれば、その後も継続して治療を行っていきます。

ただし、経過を見極めるタイミングは疾患によってさまざまです。

発症してから早い段階で来られた方は、比較的早く落ち着く印象があります。

一般的には1〜2年ほどでの終了を目指していますが、数か月で落ち着く方もいれば、長期的に通われる方もおり、個人差がとても大きいです。

遠方からも患者が訪れるEAT治療

受付
受付

―EATの処置の特徴を教えてください。

萩野:慢性上咽頭炎が非常に多くの症状や病気と密接に関連していることが報告されるようになってきており、EATによって慢性上咽頭炎が落ち着くと、それまで長年苦しんできた症状が改善する可能性が示されつつあるのです。

実際、当院でEATを行って症状の改善が見られたケースは多岐にわたります。

習慣性扁桃炎・アレルギー性鼻炎・耳管開放症・副鼻腔炎・メニエール病といった耳鼻咽喉科の疾患のほか、気管支喘息やIgA腎症といった内科の疾患、掌蹠膿疱症や尋常性乾癬などの皮膚科の疾患、他に新型コロナウイルスの後遺症などがあります。

ただし、上咽頭の炎症の度合いや、慢性上咽頭炎によって引き起こされている病状によって、効果には個人差があります。

一方、治療対象となる現病が改善しなかったとしても、患者様ご本人の頭痛や不眠などの体調不良が和らいだり、感染症にかかりにくくなり現病の悪化を防げるといった変化が期待できます。

また、薬による治療と異なり、重大な副作用が起こりにくいことも特徴です。

―EATで改善が報告されている症状には、皮膚の疾患や頭痛など、一見すると直接結びつかないものもあります。なぜ関係するのでしょうか。

萩野:すべてが解明されているわけではないのですが、大きく2つあると考えています。

一つは、免疫に関しての効果です。

上咽頭の粘膜下では、リンパ球などが細菌やウイルスと日々闘ってくれています。

ただ、その中で悪いものがたまっていくと、少しずつ血管の中に入り込み、血流に乗って体内を巡ってしまうことがあるのです。

それでたどり着いた先、たとえば腎臓で反応を起こすと、腎機能の悪化と共に血尿や蛋白尿を引き起こしてしまう場合があります。

そこでEATによって、病因の大元である上咽頭の粘膜下にたまった悪いものを外に出すことで、結果として病状や症状が落ち着いていくという考えです。

関連して、皮膚の疾患の改善にも免疫が関係していると考えています。

たとえば掌蹠膿疱症という皮膚炎は、扁桃腺の炎症が引き金となって発症・悪化することがあります。

上咽頭と扁桃腺は免疫を介してつながっているため、EATで上咽頭を処置することで扁桃腺の腫れが収まり、結果として皮膚炎の症状に改善がみられるのではないかと考えています。

そしてもう一つが、神経への刺激に関しての効果です。

上咽頭には迷走神経が分布しており、これは脳の視床下部という司令塔につながっています。

迷走神経は自律神経のバランスを左右し、全身の調和に関わると同時に、免疫系とも密接に関係しており、免疫応答の調節にも重要な役割を果たしています。

実際、迷走神経を刺激することで、過剰な免疫反応や組織の損傷が続く関節リウマチなどの症状を改善できることが知られています。(*2)

鼻から行うEATでは、まさにこの迷走神経を刺激するので、この神経への働きかけが症状の改善に関係しているのではないかと考えています。

イメージとしては、鍼治療に例えると解りやすいかもしれませんね。

*2:新潟大学脳研究所「耳を低周波刺激することで免疫の暴走が抑えられ頭が良くなる?

待合スペース
待合スペース

― EATはエビデンスが発展途上の治療だと伺いましたが、エビデンスが少ないという指摘についてはどうお考えですか。

萩野:EATは日本で半世紀以上前から行われてきましたが、そもそもエビデンスが取りにくい処置なのです。

というのも、EATが効果を発揮する上咽頭の所見は実際にこすってみるまでわからないことも多いんですよね。

また患者の症状に関しては上咽頭の炎症があるからといって必ずしも体調不良の症状が強いわけではありませんし、逆に見た目がきれいでも、こすると多量に出血するケースもあります。

さらに、EATは痛みも伴う処置でもあることもあり、痛みに弱い人には効果を実証するような試験が行いにくいという側面もあります。

また、正常対照群のデータを取る為に症状の無い人を集めて、その人に痛みを伴う処置をして上咽頭の炎症の評価を行うことはさらに難題です。

そのため、無症状の人と症状がある人とを比較できるデータが取りにくく、エビデンスを積み重ねるのが難しいのです。

今の医療ではエビデンスに基づく治療を行うことが重視されていますから、EATは大学病院では導入されにくく、行っている開業医も限られています。

ただ私は、エビデンスは自分たちで作っていくものだと考えています。

たとえば、今は広く行われているマクロライド系の抗生剤を長期に使う治療は、ある難治性の病気の患者様に一人の内科医が誤って処方したことがきっかけでした。

想定外に症状が落ち着いたことから研究が進み、エビデンスが確立されて、今では標準的な治療になったのです。

これと同じように、今後の研究によって新たにエビデンスが出てくることは十分にあり得ます。

それに、ここ数年でいろいろな臨床研究も進んできているのです。

聖マリアンナ医科大学では、新型コロナウイルス後遺症患者に対しEATを実施して自覚症状によるアンケート調査が行われたほか、旭川医科大学はEATの可能性について学会で発表を行っています。

また、地域の病院の腎臓内科や呼吸器内科などから、当院へ紹介をいただくことが増えてきています。

今後研究が進めば、AIの活用によってエビデンスが取りやすくなる可能性もあり、こうした動きの中で少しずつエビデンスを積み重ねていけたらと思います。

ピアニストとしても活動する萩野氏。医療機関でのボランティアコンサートにも参加している
ピアニストとしても活動する萩野氏。医療機関でのボランティアコンサートにも参加している

―EATを行っている医師が少ないとのことですが、遠方から貴院に来院される方もいらっしゃるのでしょうか?

萩野:はい、むしろ地元以外のエリアから来られる方のほうが多いように感じており、新幹線で通ってくる方も珍しくありません。

これまでで一番遠かったのは、アメリカ在住の日本人の方でした。

現地の治療で改善しなかったからと当院を訪ねてこられたのです。

音声治療もそうですが、当院では一般的な保険診療の枠組みだけでは対応が難しい領域にも力を入れて取り組んでいます。

そのため、標準的な治療を受けてもなお症状が残るという方が、当院を探して来られることがあります。

自らの体で実感したEAT。患者としての学びが今をつくる

ネブライザーなどの処置を受けるスペース
ネブライザーなどの処置を受けるスペース

― 先生ご自身も、EATの処置の経験があると伺いました。

萩野:2007年、強い精神的ストレスを抱えていた時期に、咳が長引く風邪のような症状が出て、自己判断で抗菌薬を内服しました。

すると数日後、口の中に大きな血腫ができて、ご飯がまともに食べられなくなったんです。

病院へ行くと、スティーヴンス・ジョンソン症候群(皮膚粘膜眼症候群)と診断されました。

身体の粘膜が腫れ、進行すると全身がやけどのような状態になり、さらに重症化すると致死率が約20%にまで高まります。(*3)

ステロイド点滴と入院でなんとか命はとりとめたのですが、仕事に復帰してからも体調は完全には戻りませんでした。

診療に復帰したものの、ひどい肩こりや脱力感に襲われ、午後になると脚に力が入らず立っていられない、起立不耐症の状態でした。

帰宅して就寝後、尿意でトイレに起きたときに立ち上がれず、トイレへ這っていったことを覚えています。

さらに、全身のしびれや耳閉感などにも悩まされていました。

大学病院で検査しても原因がわからず、いつ良くなるのか、ものすごく不安でした。

そんなある夜、家でミント味の飴をなめたときに、鼻の奥にツンとした強い痛みを感じたんです。

「これは上咽頭炎ではないか」と直感して、その夜に一人で自分のクリニックに入り、自分の上咽頭に綿棒で塩化亜鉛をコツンと塗ってみました。

すると、鉛のように重かった体がすっと楽になる感覚がありました。

霧が晴れたような気持ちで、「俺はきっと立ち直れる」と独りクリニックで泣いて叫びましたね。

それからEATでセルフケアを続けながら、2〜3年かけて少しずつ体調を戻していきました。

―その経験が、貴院でEATの処置を始めるきっかけになったのですね。

萩野:そうですね。もしあの経験がなければ、今のようにEATを行ってはいなかったと思います。

体調が回復し、体力に自信がついてきたのが2010年頃でしたが、自分と同じように原因不明の体調不良を抱える患者様などにEATの処置を始めました。

そして処置を重ねるなか、2013年には病巣疾患研究会と出会いました。

EATを研究している医師たちと知り合い、研究会で聴講と発表を重ね、情報を共有しながらEATの適応疾患や効果について少しずつ理解を深めていきました。

診察室
診察室

―患者としての経験を通して、ほかにも何か変化したことはありましたか。

萩野:180度変わったと言ってもいいくらい、医者としての姿勢が変わりましたね。

具合が悪くなる前の私は、「医者には威厳があるべきで、少し厳格にしているくらいが立派に見える」くらいに思っていました。

ところが、いざ自分が患者の立場になってみると、そんな威厳は一つもいらないとわかったんです。

最初にかかった大学病院の先生が、まさにそういう方でした。

診察の途中で「今日は学会で忙しいから終わり」と言われ、ステロイドの服用について尋ねても「自分で判断して」と帰されてしまい、非常に不安で絶望的な気持ちになったのを覚えています。

「この大学病院の先生に罹り続けても自分は回復しない」と直感し、その日のうちに、地元の内科医にかかったところ、一時間近くじっくり話を聞いてくれて、検査結果や体の状態についても丁寧に説明してくれたんです。

当時は泌尿器にも不調を抱えていて、泌尿器科医にもかかったのですが、非常にフレンドリーで優しく接してくれて、つらい気持ちがずいぶん楽になったんですよね。

こうした経験から、医者に威厳はいらない、患者様のお話をちゃんと聞くことこそが本当に必要なことだと考えるようになりました。

また、薬との向き合い方も変わりました。

自分自身が不要な薬を飲んで重い副作用を経験したので、患者様には不要な薬を絶対に出さないと決めたんです。

スティーヴンス・ジョンソン症候群は、人口100万人当たり年間で約2.5人にしか発症しない病気ですが、その数人に自分が当たってしまった。(*4)

だからこそ、当院では、抗生物質やステロイドといった薬は本当に必要な時だけで、副作用の確率がどれだけ低くても、不要な薬は出さないという方針にしました。

*3:厚生労働省「039 中毒性表皮壊死症
*4:難病情報センター「スティーヴンス・ジョンソン症候群(指定難病38)

「気のせい」「歳のせい」と片付けない、寄り添う診療

はぎの耳鼻咽喉科 萩野仁志 院長

―診療で大切にされていることを教えてください。

萩野:患者様の訴えをないがしろにせず、寄り添う姿勢こそが、何より大切だと考えています。

私が患者様に使わないと決めているNGワードが、二つあります。

「それは気のせいです」と「それは歳のせいです」の二つです。

たとえ検査で異常が出なくても、教科書に載っていなくても、患者様の症状の一つひとつには、必ず原因があると思っています。

その背景には、ご家族のことや介護、職場の悩みなどが隠れていることもある。

だからこそ当院では、どんなことでもまずは話を聞いて、改善のきっかけを丁寧にたどることが大切だと考えているのです。

また、患者様とお話しする際には、問診表で症状の程度を点数でつけていただいています。

患者様のつらさは言葉だけではなかなか測りきれず、単に話を聞くだけではどうしても限界がありますから。

問診表
問診表

こうして点数にすると、その患者様が何の症状でどれくらいつらい思いをしているのかが、はっきりと見えてきます。

検査では分からない、患者様が抱えるつらさや不調も含めて正しく診断・評価したうえで治療を進めていきます。

―患者様の訴えを大切にするようになった理由を教えてください。

萩野:たとえば、耳管開放症という病気の患者様を診てきた中で、「大きな音を聞いた直後から症状が出た」とおっしゃる方がいました。

教科書にはそんなことは載っていませんし、ある学会で耳管開放症の発症原因の一つと考えられることを自分の経験談として発言したところ権威のある先生には「思い過ごしだろう」と言われました。

ところが、その後も診療を続けるうちに、同じように大きな音をきっかけに不調が出た方がほかにもいらっしゃったのです。

交通整理のホイッスルの音、運動会のピストルの音、海外で体験した射撃の音――。

これは教科書に書いていないけれど、だからといって“思い過ごし”と片付けてはならないと感じました。

また、この耳管開放症という病気は診断が難しく、手軽にグラフを得られる音響法という検査だけでは見逃してしまったり、結果の読み方によって開放症が狭窄症と読み間違えられたりすることがあります。

聴力が正常だと一過性のものだと判断されることもあり、納得できない気持ちを抱える患者様がいらっしゃるのが実情です。

そういう状況を目の当たりにしてきたから、患者様がおっしゃるならまずは疑ってみなければいけないと考えるようになりましたね。

日々の診療で見聞きした患者様の事例や経過は、すべてノートに書き留めています。

頭痛、皮膚の症状、リウマチ、コロナワクチンの副作用や後遺症……一見なんでもないことでも、将来、何かの役に立つかもしれませんから。

はぎの耳鼻咽喉科 萩野仁志 院長
はぎの耳鼻咽喉科 萩野仁志 院長

―今後の展望をお聞かせください。

萩野:EATは決して難しい処置ではないのですが、やり方によって効果が大きく変わります。

ですから、まずは基本的な対応の仕方を、できるだけ多くの医師に伝えていきたいと考えています。

よくあるのが、こするのが不十分なケースです。

表面に薬をつける感覚で処置をしているために、こする深さが足りず、効果が出にくくなっていることが多々あります。

少し薄皮を剥がすようにこすって内容物を外に出してあげる処置が必要で、その深さや角度は感覚でつかまなければなりません。

そのため、伝えていくためには目の前で実践する必要があるのです。

これまで、内科の先生や総合病院の責任者の先生が訪ねてこられて自院でEATのデモンストレーションをしたり、学会のレクチャーをしたり、学会のハンズオンセミナーでは参加者の医師に模型などを使って手技を教えたりもしています。

お呼びがかかればどこでも遠方まで出張するので、この治療が正しく広まっていってほしいと思います。

そして、EATのエビデンスも蓄積され、ゆくゆくは当たり前のものとして、よりたくさんの人の力になる治療になってほしいと願っています。

インタビューを終えて

「教科書に書いていないことでも、患者様が言うなら、まず疑わなければいけない」。
萩野医師のこの言葉は、患者として診てもらう側からすれば、何より心強いひとことだ。
「こんなことで病院に行っていいのか」「放っておけば治るかも」と受診をためらっていた末にようやく足を運んだ人や、忙しい中で時間をやりくりしてやっと病院に行く時間がとれたという人もいるだろう。
そんなとき、訴えを真正面から受け止めてくれる医師の存在は、前を向く原動力となる。
たとえ検査で異常がなくとも、訴えを受け止め、不調を否定せず、原因を一緒に探そうとするその姿勢そのものが、患者の大きな支えになるはずだ。
EATはまだエビデンスを積み上げている発展途上の治療だ。
しかし、原因のわからない不調や、長い間改善しない症状に苦しんできた人にとっての希望となる可能性をはらんでいる。
その可能性を信じ、情熱を持って患者一人ひとりの声に耳を傾ける萩野医師は、これからも多くの人の支えとなっていくだろう。

はぎの耳鼻咽喉科について

項目 詳細
クリニック名 はぎの耳鼻咽喉科
院長 萩野 仁志(はぎの ひとし)
クリニック紹介 一般的な耳鼻咽喉科の診療に加え、「声の診療」とEAT(上咽頭擦過治療)を専門的に行うクリニック。歌手や役者、声優など声を使うプロフェッショナルに対応する音声専門外来を長年にわたり手がけるほか、喉の奥の上咽頭に行うEATを積極的に取り入れ、原因のわからない不調や慢性上咽頭炎に伴うさまざまな症状に向き合う。内視鏡を用いて目で確認しながら丁寧に処置を行い、簡易的な麻酔で負担にも配慮。診療では漢方も積極的に活用している。
所在地 〒194-0041
東京都町田市玉川学園7-1-6 リビエール玉川学園前
アクセス 小田急小田原線 玉川学園前駅下車南口 徒歩2分
電話番号 042-728-8737
診療時間 月:9:30~11:45 / 14:30~17:45
火:9:30~11:45(午後は音声専門外来または特殊外来)
水:9:30~11:45 / 14:30~17:45
金:9:30~11:45 / 14:30~17:45
土:9:30~11:45(第2・第4のみ)
休診日:木・日・祝/土曜午後
Webサイト http://haginojibika.com/
公式メディア Youtube
EAT(上咽頭擦過治療)を正しく知るチャンネル
ご予約 WEBまたは電話での予約
インタビューした人
安藤ショウカ
フリーライター
安藤ショウカ
元エンジニアの視点を活かし、DX・テクノロジー・スタートアップなどBtoBビジネス系の取材記事を得意とする。近年は、統合報告書やサステナビリティ関連コンテンツ、医療・ヘルスケア領域の取材記事などにも携わり、経営者、専門職、現場担当者へのインタビューを通じて、企業や組織の価値を丁寧に掘り下げている。